従業員の労働時間を適切に管理できていますか。タイムカードの記録ミスや残業代の計算間違いが原因で、従業員とのトラブルや労働基準監督署からの是正勧告を受けるケースが増えています。労働時間管理は企業にとって法的義務であり、正しく運用しなければ大きなリスクにつながります。この記事では、中小企業の経営者や人事担当者が押さえておくべき労働時間管理の実務ポイントを、具体的な失敗事例と対策を交えながら解説します。
労働時間管理でよくある3つのミスと対策
労働時間管理において、多くの企業で共通して発生しやすいミスがあります。ここでは代表的な3つのミスと、その対策について詳しく見ていきましょう。
タイムカードの不適切な運用
タイムカードによる労働時間 記録方法は多くの企業で採用されていますが、運用が不適切なケースが少なくありません。よくある不備例として、以下のようなものが挙げられます。
- 従業員が出勤時刻を手書きで修正している
- 上司や同僚が代わりに打刻している(代理打刻)
- 実際の出退勤時刻と記録にズレがある
- 打刻忘れの際の記録修正ルールが曖昧
これらの問題は、実際の労働時間と記録が一致しないという重大なリスクを生み出します。特に代理打刻は労働基準法違反となる可能性があり、労基署調査で指摘されやすいポイントです。
対策としては、以下のルールを明確に定めることが重要です。タイムカードの修正は必ず上長の承認を得ること、修正理由を記録すること、代理打刻を厳禁とすることなどを就業規則に明記し、従業員に周知徹底しましょう。また可能であれば、生体認証機能付きの勤怠管理システムの導入を検討することで、不正打刻のリスクを大幅に低減できます。
休憩時間の取り扱いミス
休憩時間の管理も、残業代 計算ミスにつながりやすい重要なポイントです。労働基準法第34条では、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければならないと定められています。
実務でよく見られる休憩時間の取り扱いミスには、以下のようなパターンがあります。
- 実際には30分しか休憩を取っていないのに1時間で計算している
- 電話番や来客対応をしながらの「休憩」を休憩時間として扱っている
- 休憩時間の記録を取っていない(タイムカードに反映されていない)
- 分割休憩を適切に管理できていない
特に問題なのが、実態として労働している時間を休憩時間として処理してしまうケースです。電話番や受付業務をしながらの「休憩」は、法的には労働時間とみなされます。
実態に合った休憩付与を実現するためには、まず従業員が実際に業務から完全に離れられる環境を整えることが先決です。その上で、休憩時間の開始・終了時刻を明確に記録し、月次で実態と記録が一致しているかをチェックする体制を構築しましょう。顧問先の事例では、休憩時間を記録していなかったために、残業代の再計算を求められ、過去2年分で約200万円の追加支払いが発生したケースがありました。
みなし残業制度の誤解
固定残業代制度(みなし残業制度)は、適切に設計すれば労使双方にメリットがある制度ですが、誤った理解のもとで運用されているケースが非常に多く見られます。
よくある誤解として、「固定残業代を払っているから、何時間残業させても追加の支払いは不要」というものがあります。これは明確な誤りです。固定残業代はあくまで一定時間分の残業代を定額で支払う制度であり、その時間を超えた分については必ず追加で支払わなければなりません。
固定残業代制度を適切に運用するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 固定残業代が何時間分の残業代に相当するかを明示する
- 基本給と固定残業代を明確に区分する
- 実際の残業時間を記録し、超過分は別途支払う
- 就業規則や雇用契約書に制度の詳細を記載する
厚生労働省のガイドラインでも、固定残業代制度を採用する場合は、「固定残業代を除いた基本給の額」「固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法」「固定残業時間を超える時間外労働等についての割増賃金を追加で支払う旨」を明示することが求められています。就業規則への明記はもちろん、給与明細書にも内訳を明確に記載することで、従業員との認識のずれを防ぐことができます。
正確な労働時間記録のための実務手順
労働時間管理のミスを防ぐためには、日々の記録と管理の仕組みを整えることが不可欠です。ここでは、実務で実践すべき具体的な手順を解説します。
記録方法の選択と管理ルール
労働時間 記録方法の選択は、企業規模や業種、働き方に応じて適切なものを選ぶ必要があります。厚生労働省のガイドラインでは、使用者が労働時間を適正に把握するため、「客観的な記録」を基礎として確認することが原則とされています。
具体的な記録方法としては、以下のような選択肢があります。
- タイムカードによる記録(従来型の打刻式)
- ICカードやバーコードによる記録
- クラウド型の勤怠管理システム
- パソコンのログイン・ログアウト記録
- 入退室管理システムの記録
勤怠管理システムの導入を検討する際は、自社の働き方に合った機能があるかを確認しましょう。テレワークが多い企業であれば、スマートフォンやPCからの打刻機能が必須です。また、シフト制の職場であれば、シフト管理機能が統合されているシステムが便利です。導入コストだけでなく、使いやすさやサポート体制も重要な選定基準となります。
記録方法を決めたら、次は管理ルールの整備です。以下のポイントを明確にしておくことで、記録の信頼性が高まります。
- 打刻忘れや記録ミスがあった場合の修正手順
- 修正時の上長承認フロー
- 直行直帰や外回りの際の記録方法
- 月末の記録確認と承認のタイミング
管理者による承認フローを整備することは特に重要です。従業員が記録した労働時間を、毎月必ず上長が確認・承認するプロセスを設けることで、記録ミスや不正を早期に発見できます。このプロセスを徹底するだけで、労働時間管理の精度は大きく向上します。
記録の保管期間と確認体制
タイムカード 保管や労働時間記録の保存は、法律で義務付けられています。労働基準法第109条では、使用者は労働者名簿、賃金台帳および雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間(当分の間は3年間)保存しなければならないと定められています。
また労働基準法第108条では、賃金台帳に労働日数、労働時間数、時間外労働時間数などを記入することが義務付けられています。タイムカードや勤怠記録は、この賃金台帳の基礎資料となるため、同様に保存する必要があります。
保存期間の起算点は「最後の記載をした日」です。つまり、2024年3月分の勤怠記録であれば、2024年3月31日から5年間(当面3年間)保存する必要があります。紙のタイムカードの場合は物理的な保管場所の確保が必要ですが、勤怠管理システムを利用していればクラウド上に自動保存され、管理の手間が大幅に軽減されます。
記録を保存するだけでなく、定期的な確認体制を構築することも重要です。以下のような月次チェックリストを活用すると効果的です。
- 全従業員の出退勤記録に漏れがないか
- 休憩時間が適切に記録されているか
- 時間外労働時間の計算に誤りがないか
- 36協定の上限時間を超過している従業員がいないか
- 固定残業時間を超過した分の追加支払いが発生していないか
社労士による定期監査を受けることも、労働時間管理の精度を高める有効な方法です。第三者の専門家の目で確認してもらうことで、社内では気づきにくいミスや法令違反のリスクを早期に発見できます。特に法改正があった際には、自社の管理方法が最新の労働時間 法律に適合しているかを確認してもらえるメリットがあります。年1回程度の定期監査に加えて、労基署調査の前には事前チェックを依頼することで、指摘事項を未然に防ぐことができます。
まとめ
労働時間管理は、適切な賃金支払いと法令遵守のために欠かせない重要な業務です。この記事では、よくある3つのミス(タイムカード運用、休憩時間、みなし残業制度)とその対策、そして正確な記録のための実務手順(記録方法の選択、保管期間と確認体制)について解説しました。
重要なポイントを振り返ると、以下の3つに集約されます。
- 客観的な記録:タイムカードや勤怠管理システムで、実態に即した労働時間を正確に記録する
- 定期的な確認:月次でのチェックと上長承認のフローを整備し、ミスを早期発見する
- 法令の理解:労働基準法の保存義務や休憩時間の規定など、基本的な法律知識を持つ
労働時間管理の仕組みを整えることで、従業員との信頼関係が深まり、労使トラブルのリスクも大幅に低減できます。もし現在の管理方法に不安がある場合や、労基署調査に備えたい場合は、社会保険労務士に相談することをお勧めします。Salt社会保険労務士法人では、労働時間管理の診断から勤怠システムの導入支援まで、幅広くサポートしております。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。