人手不足時代に求められる労務管理とは?

「求人を出しても応募が来ない」「せっかく採用しても、すぐに辞めてしまう」このような悩みを抱える経営者の方は少なくありません。厚生労働省の調査によると、従業員の過不足状況について「不足」と回答した企業は全体の約50%に達しており、特に中小企業では深刻な課題となっています。人手不足が常態化する中、従来の労務管理では限界があることは明らかです。本記事では、人手不足時代に必須となる労務管理の視点と、中小企業が今すぐ取り組むべき具体的な対策について解説します。

人手不足が労務管理に与える3つの深刻な影響

人手不足は単なる採用難だけでなく、企業の労務管理全体に深刻な影響を及ぼしています。ここでは特に注意すべき3つの影響について見ていきましょう。

既存社員の労働時間増加と健康リスク

人手が足りない状況では、既存の社員に業務負担が集中します。その結果、長時間労働が常態化し、社員の心身の健康を損なうリスクが高まります。

実際の相談事例として、製造業A社では欠員補充ができず、残業時間が月80時間を超える社員が続出しました。その結果、メンタル不調による休職者が発生し、さらなる人手不足を招く悪循環に陥ったケースがあります。

長時間労働は労災認定の基準にもなりやすく、企業の安全配慮義務違反として法的リスクも伴います。労働時間管理の徹底と、適切な労働環境の維持が急務となっています。

採用コスト増加と教育の負担

採用難の時代、求人広告費や人材紹介会社への手数料など、採用コストは年々上昇しています。しかし、コストをかけて採用しても定着しなければ、教育にかけた時間や費用が無駄になってしまいます。

サービス業B社の事例では、年間採用コストが売上の3%を超え、さらに早期離職により3ヶ月以内に退職する社員が全体の40%に達していました。採用と教育のサイクルが回らず、現場の疲弊が進んでいたのです。

このような状況では、採用活動と並行して定着率向上の施策に力を入れることが、結果的にコスト削減につながります。

労務トラブルと法令違反のリスク増大

人手不足により労務管理に手が回らなくなると、労働時間の未記録や残業代の未払い、有給休暇の取得拒否など、知らず知らずのうちに法令違反を起こしてしまうリスクが高まります。

労働基準監督署の調査で是正勧告を受けた場合、企業名が公表されることもあり、採用活動にさらなる悪影響を及ぼす可能性があります。人手不足だからこそ、労務管理の基本をしっかり押さえる必要があるのです。

人手不足時代の労務管理で重視すべき2つの方向性

人手不足時代の労務管理は、従来の「採用重視」から「定着重視」へと発想を転換する必要があります。ここでは特に重要な2つの方向性を解説します。

既存社員の定着率向上施策

新規採用が困難な状況では、今いる社員に長く働いてもらうことが最優先課題となります。離職の原因として多いのは、待遇面だけでなく職場の人間関係や仕事のやりがい、キャリアアップの機会不足などです。

定着率向上のためには、以下のような取り組みが効果的です。

  • 定期的な面談によるコミュニケーション強化
  • 評価制度の透明性確保と昇給・昇格の明確化
  • スキルアップ研修の実施とキャリアパスの提示
  • 社内表彰制度による貢献の見える化

特に入社3ヶ月以内の早期離職を防ぐため、新入社員へのフォロー体制を整えることが重要です。メンター制度の導入や、定期的な振り返り面談を行うことで、不安や悩みを早期に解消できます。

働きやすい職場環境の整備

求職者が企業を選ぶ際、給与だけでなく働きやすさを重視する傾向が強まっています。柔軟な働き方ができる環境や、ワークライフバランスを大切にする企業文化は、採用面でも大きなアピールポイントになります。

具体的には次のような環境整備が求められます。

  • 時短勤務やフレックスタイム制度の導入
  • テレワーク・リモートワークの選択肢提供
  • 年次有給休暇の取得促進
  • 育児・介護との両立支援制度の充実

中小企業では制度導入のハードルが高いと感じるかもしれませんが、まずは特定の職種や部署から試験的に導入し、段階的に広げていく方法も有効です。

中小企業が今すぐ取り組むべき労務管理施策2選

ここからは、人手不足対策として中小企業が優先的に取り組むべき労務管理施策を2つご紹介します。すぐに実践できるものばかりですので、自社の状況に合わせて検討してください。

労働時間管理の徹底と残業削減

人手不足だからこそ、労働時間管理を徹底し、社員の健康を守ることが重要です。2019年の働き方改革関連法施行により、時間外労働の上限規制が厳格化されました。

まず取り組むべきは、正確な労働時間の把握です。タイムカードやクラウド勤怠管理システムを導入し、始業・終業時刻を客観的に記録しましょう。手書きの出勤簿では、実態が把握できず法令違反のリスクが高まります。

残業削減のためには、業務の見直しも必要です。無駄な会議や資料作成を減らし、業務の優先順位を明確にすることで、限られた時間で成果を出せる体制を作りましょう。ノー残業デーの設定や、定時退社の推奨も効果的です。

柔軟な働き方制度の導入

多様な人材を活用するためには、柔軟な働き方の選択肢を用意することが効果的です。特に子育て中の方や介護を担う方にとって、時短勤務やテレワークは就業継続の重要な条件となります。

制度導入にあたっては、まず対象者の希望をヒアリングし、職種や業務内容に応じて可能な範囲から始めることがポイントです。全社一律での導入が難しい場合でも、部分的な導入から効果を検証し、徐々に拡大していく方法が現実的です。

また、制度を作るだけでなく、実際に利用しやすい雰囲気づくりも大切です。管理職が率先して制度を活用したり、利用者を評価で不利にしないルールを明確化することで、社員が安心して制度を利用できる環境が整います。

助成金を活用した人手不足対策の進め方

労務管理の改善や働き方改革には、国や自治体の助成金を活用できる場合があります。ここでは代表的な2つの助成金についてご紹介します。

働き方改革推進支援助成金の活用

働き方改革推進支援助成金は、労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進など、働き方改革に取り組む中小企業を支援する制度です。勤怠管理システムの導入費用や、業務効率化のための設備投資などが対象となる場合があります。

助成金を受給するためには、事前に計画を策定し、所定の手続きを経る必要があります。また、労働時間の削減など、一定の成果目標を達成することが求められます。申請には専門知識が必要となるため、社会保険労務士への相談をおすすめします。

キャリアアップ助成金による定着促進

キャリアアップ助成金は、非正規雇用の労働者を正社員化したり、処遇改善を行った企業に支給される助成金です。人材の定着促進に効果的な制度として、多くの企業が活用しています。

正社員化コースでは、有期契約社員やパートタイマーを正社員に転換することで、1人あたり数十万円の助成金が支給される場合があります。ただし、転換前後の賃金引き上げや、6ヶ月以上の雇用継続など、一定の要件を満たす必要があります。

助成金は年度によって制度内容や予算が変わるため、最新情報を確認した上で申請することが重要です。また、助成金ありきで制度設計をするのではなく、自社の経営方針や人材戦略に基づいた取り組みを行うことが前提となります。

まとめ

人手不足時代の労務管理は、従来の「採用重視」から「定着重視」へと発想を転換することが求められています。本記事でご紹介した内容を以下にまとめます。

  • 人手不足の影響を正しく認識する:長時間労働の常態化や採用コスト増加、法令違反リスクの増大など、放置すれば企業経営に深刻な影響を及ぼします
  • 定着率向上と働きやすい環境整備を優先する:既存社員が長く働ける職場づくりこそが、人手不足対策の基本です
  • 具体的な施策と助成金を活用する:労働時間管理の徹底、柔軟な働き方制度の導入、各種助成金の活用により、実効性のある対策が可能です

労務管理の改善は一朝一夕には実現しませんが、できることから着実に取り組むことで、働きやすい職場づくりと経営の安定化が実現できます。専門的な助言が必要な場合は、Salt社会保険労務士法人までお気軽にご相談ください。初回相談は無料で承っております。

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