新しくスタッフを採用する際、「どんな書類が必要なのか」「いつまでに何をすれば良いのか」と悩まれる経営者や人事担当者の方は多いのではないでしょうか。労務管理の手続きには法律で定められた義務があり、漏れがあると労働基準監督署からの指導や、後々の労使トラブルにつながる可能性があります。
この記事では、新人スタッフの採用時に必ず押さえるべき労務管理の基礎について、実務で使えるチェックポイントと共に解説します。中小企業の経営者・人事担当者の方が、安心して新人を迎え入れられるよう、具体的な手続きの流れと注意点をお伝えします。
新人採用時に必ず行うべき5つの労務手続き
このセクションでは、新人採用時に法律で義務付けられている5つの労務手続きについて解説します。これらの手続きを適切に行うことで、労使トラブルを未然に防ぐことができます。
労働条件通知書の交付義務
労働条件通知書は、労働基準法第15条により雇用主が労働者に必ず交付しなければならない書類です。雇用契約を結ぶ際、労働者に対して労働条件を明示する義務があります。
必ず書面で明示しなければならない項目は以下の通りです。
- 労働契約の期間(期間の定めの有無)
- 就業の場所・従事する業務の内容
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
- 賃金の決定・計算・支払い方法、締切日・支払日
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
交付期限は雇用契約締結時までです。入社日当日では遅く、内定承諾のタイミングで交付することが一般的です。厚生労働省が公開している「労働条件通知書のモデル様式」を参考に作成すると、記載漏れを防げます。
【相談事例】「労働条件通知書を口頭でしか説明しておらず、入社後に『聞いていた条件と違う』とトラブルになったケースがあります。書面での交付は法的義務であり、証拠としても重要です」
雇用契約書の作成ポイント
雇用契約書は労働条件通知書と異なり、労使双方の合意を示す契約書です。法律上の作成義務はありませんが、後のトラブル防止のため作成することが推奨されます。
雇用契約書に盛り込むべき主なポイントは以下の通りです。
- 試用期間の有無と期間(通常3〜6ヶ月)
- 配置転換や転勤の可能性
- 副業・兼業の可否
- 秘密保持義務や競業避止義務
- 契約更新の基準(有期雇用の場合)
特に試用期間や配置転換の条項は、入社後のミスマッチが判明した際の対応に関わる重要な項目です。曖昧な表現を避け、具体的に記載しましょう。
社会保険・雇用保険の加入手続き
新人スタッフが一定の要件を満たす場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)と雇用保険への加入が義務付けられています。
【加入要件と手続き期限】
| 保険種類 | 加入要件 | 手続き期限 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金 | 週30時間以上勤務(一部例外あり) | 入社日から5日以内 |
| 雇用保険 | 週20時間以上勤務かつ31日以上雇用見込み | 入社月の翌月10日まで |
手続きが遅れると、労働者が医療機関を受診できない、失業給付を受けられないなどの不利益が生じます。また、事業主には罰則が科される可能性もあるため、期限内に必ず手続きを行いましょう。
労働者名簿の作成
労働者名簿は、労働基準法第107条により各事業場で備え付けが義務付けられている書類です。労働者ごとに以下の事項を記載する必要があります。
- 氏名
- 生年月日
- 履歴(職歴)
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類(常時30人以上の場合)
- 雇入れの年月日
- 退職・解雇・死亡の年月日とその理由
労働者名簿は労働基準監督署の調査時に確認される重要書類です。入社時に作成し、異動や退職時には速やかに更新しましょう。退職後も3年間の保存義務があります。
36協定と就業規則の周知
時間外労働や休日労働をさせる場合、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結と労働基準監督署への届出が必要です。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と届出が義務付けられています。
新人スタッフには入社時に以下を周知しましょう。
- 就業規則の内容(労働時間、休日、賃金、服務規律など)
- 36協定の締結状況と時間外労働の上限
- 各種社内規程(育児介護休業規程など)
周知方法は、書面の配布、社内システムへの掲載、掲示板への掲示などがあります。「知らなかった」というトラブルを防ぐため、確実に周知しましょう。
【社労士からのアドバイス】「36協定を締結せずに残業させると、労働基準法違反となります。採用前に36協定の締結状況を確認し、未締結の場合は早急に対応が必要です」
試用期間を設定する際の3つの注意点
このセクションでは、新人採用時に設定する試用期間について、法的リスクを回避するための注意点を解説します。
試用期間の適正な長さ
試用期間とは、雇用後に労働者の適性を見極めるための期間です。法律上の明確な上限はありませんが、一般的には3〜6ヶ月が相場とされています。
試用期間を設定する際の注意点は以下の通りです。
- 1年を超える試用期間は公序良俗違反とされる可能性がある
- 試用期間の延長は原則として労働者の同意が必要
- 試用期間の趣旨(能力・適性の確認)を雇用契約書に明記する
長すぎる試用期間は、労働者に不安定な地位を強いることになり、合理性がないと判断される恐れがあります。
本採用拒否のリスク
試用期間中であっても、本採用を拒否することは解雇に該当します。解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます(労働契約法第16条)。
本採用拒否が認められにくいケースの例を挙げます。
- 単に「期待と違った」という主観的な理由
- 十分な指導・教育を行わずに能力不足と判断
- 採用時に予見できた事由(経歴詐称を除く)
本採用拒否を検討する場合は、具体的な問題行動の記録、改善指導の実施、面談記録の保管などを行い、客観的な根拠を残すことが重要です。安易な本採用拒否は労働審判や訴訟に発展するリスクがあります。
試用期間中の賃金設定
試用期間中であっても、最低賃金法の適用があります。都道府県ごとに定められた最低賃金を下回ることはできません。
一般的には、本採用後と同額の賃金を支払うケースが多いですが、試用期間中の賃金を減額する場合は以下の点に注意が必要です。
- 減額する旨を雇用契約書に明記する
- 減額幅は10〜20%程度が目安(過度な減額は無効となる可能性)
- 試用期間満了後は速やかに本来の賃金に戻す
試用期間を理由に著しく低い賃金を設定することは、公序良俗違反として無効と判断される可能性があります。
新人の勤怠管理と残業対応の基本
このセクションでは、新人スタッフの労働時間管理と残業対応について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
労働時間の適正な記録方法
使用者には、労働時間を適正に把握する義務があります(労働安全衛生法第66条の8の3)。タイムカードやICカード、勤怠管理システムなど、客観的な記録方法を用いることが求められます。
勤怠管理で注意すべきポイントは以下の通りです。
- 始業時刻と終業時刻を客観的に記録する
- 自己申告制のみは不適切(上司による確認が必要)
- タイムカードの打刻忘れは速やかに修正する
- 休憩時間を適切に付与し、記録する
労働時間の記録は、残業代の計算根拠となるだけでなく、労働基準監督署の調査や労働審判での重要な証拠となります。記録を3年間保存する義務もあります。
残業命令と36協定
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合、36協定の締結と届出が必須です。36協定を締結していない状態での残業命令は違法となります。
残業対応で押さえるべきポイントは以下の通りです。
- 36協定で定めた上限時間(月45時間・年360時間)を超えない
- 特別条項を設ける場合も年720時間が上限
- 残業命令は業務上の必要性があり、労働者の同意がある場合のみ
- 残業代は法定割増率(25%以上)で支払う
新人スタッフに対しても、ベテラン社員と同様に労働時間の上限規制が適用されます。長時間労働は健康被害のリスクもあるため、適切な労働時間管理を心がけましょう。
まとめ
新人スタッフの労務管理で押さえるべき基礎について解説しました。重要なポイントは以下の3つです。
- 法定書類の交付と保険手続きを期限内に行う:労働条件通知書の交付、社会保険・雇用保険の加入手続き、労働者名簿の作成は法的義務です
- 試用期間の設定と本採用拒否は慎重に判断する:本採用拒否は解雇に該当し、客観的な根拠が必要です
- 労働時間の適正な記録と36協定の遵守:勤怠管理は客観的な方法で行い、残業は36協定の範囲内で命じましょう
これらの基本を押さえることで、労使トラブルを未然に防ぎ、新人スタッフが安心して働ける環境を整えることができます。労務管理で不安な点がある場合は、専門家への相談をご検討ください。
労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。