賞与を支給する際、「総支給額から何をどう差し引けばいいのか」と悩まれる経営者の方は少なくありません。月給計算とは異なるルールがあり、計算ミスをすると従業員との信頼関係に影響するだけでなく、労務トラブルに発展するリスクもあります。この記事では、賞与計算の基本的な流れと、社会保険料・所得税の正しい計算方法について、具体例を交えながら解説します。
賞与から差し引く3つの項目
賞与の手取り額を計算する際には、総支給額から以下の項目を差し引く必要があります。月給とは計算方法が異なる部分があるため、それぞれの特徴を理解することが重要です。
健康保険料・厚生年金保険料
賞与から差し引く社会保険料は、標準賞与額を基準に計算します。標準賞与額とは、賞与の総支給額から千円未満を切り捨てた金額のことです。例えば、賞与が503,800円の場合、標準賞与額は503,000円となります。
健康保険料と厚生年金保険料には、それぞれ上限額が設定されています。健康保険料は年度累計573万円まで、厚生年金保険料は1か月あたり150万円が上限です。これらの上限を超えた部分については、保険料は徴収されません。
計算の際は、標準賞与額に保険料率を乗じて算出します。この保険料は会社と従業員で折半するため、従業員からは半額を徴収する形になります。
雇用保険料と所得税
雇用保険料は、賞与の総支給額に雇用保険料率を乗じて計算します。健康保険料や厚生年金保険料のように千円未満を切り捨てる処理は不要で、総支給額そのものに料率をかけます。令和5年度の雇用保険料率は、一般の事業で0.6%です(従業員負担分)。
所得税(源泉徴収税額)の計算方法は、賞与特有のルールがあります。前月の給与額と扶養親族等の数をもとに、国税庁が定める「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使用して計算します。月給とは異なる税率表を使う点に注意が必要です。
賞与の社会保険料計算の手順
社会保険料の計算は、標準賞与額の決定から始まります。正確な計算のために、手順を確認していきましょう。
標準賞与額の決定ルール
標準賞与額を決定する際の基本ルールは、千円未満の端数を切り捨てることです。例として、以下のケースを見てみましょう。
- 賞与額500,000円 → 標準賞与額500,000円
- 賞与額500,800円 → 標準賞与額500,000円
- 賞与額500,100円 → 標準賞与額500,000円
健康保険料の場合、年度(4月から翌年3月まで)の累計額が573万円を超える部分については、標準賞与額の対象外となります。厚生年金保険料は、1か月あたり150万円が上限です。例えば、6月に200万円の賞与を支給した場合、厚生年金保険料の計算には150万円までしか算入されません。
保険料率の確認と計算式
保険料の計算には、最新の保険料率を使用することが重要です。健康保険料率は都道府県ごとに異なり、協会けんぽの場合は毎年3月に改定されます。厚生年金保険料率は全国一律で、令和5年9月以降は18.3%です。
具体的な計算例を見てみましょう。賞与50万円を支給する場合(東京都・協会けんぽ・40歳未満を想定):
- 標準賞与額:500,000円
- 健康保険料(料率10%):500,000円 × 10% = 50,000円(労使合計)→ 従業員負担25,000円
- 厚生年金保険料(料率18.3%):500,000円 × 18.3% = 91,500円(労使合計)→ 従業員負担45,750円
従業員から徴収するのは労使折半後の金額で、合計70,750円となります。会社側も同額を負担し、年金事務所等に納付します。
賞与の所得税計算(源泉徴収)
賞与の所得税は、月給の源泉徴収とは異なる方法で計算します。前月の給与額が計算に影響する点が特徴的です。
賞与に対する源泉徴収税額の算出表
賞与の所得税を計算する手順は以下の通りです:
- 前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額を求める
- 扶養親族等の数を確認する
- 国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で該当する税率を確認
- (賞与から社会保険料等を差し引いた金額)× 税率 = 源泉徴収税額
具体例として、以下の条件で計算してみます:
- 前月給与:300,000円(社会保険料等控除後:250,000円)
- 扶養親族等の数:1人
- 賞与:500,000円(社会保険料70,750円控除後:429,250円)
算出率の表から、前月給与250,000円・扶養1人の場合の税率は4.084%です。したがって、429,250円 × 4.084% = 約17,530円が源泉徴収税額となります。
前月給与がない場合の特例
前月に給与の支払いがなかった場合や、賞与の金額が前月給与の10倍を超える場合は、特別な計算方法を使用します。この場合、(賞与 – 社会保険料等)÷ 6を「月額表」に当てはめて税額を求め、それを6倍します。
例えば、前月給与がなく賞与60万円を支給する場合(社会保険料8万円控除後52万円):
- 520,000円 ÷ 6 = 86,666円
- 月額表で86,666円に該当する税額を確認(扶養0人の場合:約2,980円)
- 2,980円 × 6 = 17,880円が源泉徴収税額
このように、通常とは異なる計算方法になる点に注意が必要です。
賞与計算でよくある2つの間違い
賞与計算では、特有のルールを見落として誤った処理をしてしまうケースがあります。代表的な間違いを確認しておきましょう。
標準賞与額の上限を超えた場合
高額な賞与を支給する際、標準賞与額の上限を超えた部分については保険料が発生しない点を見落とすケースがあります。例えば、厚生年金保険料の上限は月額150万円ですから、200万円の賞与を支給しても、保険料計算には150万円までしか使用しません。
また、健康保険料は年度累計で573万円が上限となっています。年度内に複数回の賞与を支給する場合は、累計額を管理し、上限を超えないよう注意が必要です。超過分については従業員から徴収しないよう、正確な計算を心がけましょう。
賞与支給月の社会保険料
賞与を支給した月に、「給与と賞与の両方から社会保険料を引くのは二重徴収ではないか」という誤解が生じることがあります。しかし、給与と賞与の社会保険料はそれぞれ別に計算されるものですので、両方から徴収することは正しい処理です。
給与の社会保険料は標準報酬月額をもとに計算し、賞与の社会保険料は標準賞与額をもとに計算します。計算の基準が異なるため、同じ月に両方を徴収しても問題ありません。従業員から質問があった場合は、この仕組みを丁寧に説明することが大切です。
まとめ
賞与計算では、標準賞与額の決定、社会保険料の計算、所得税の源泉徴収という3つのステップを正確に行うことが重要です。この記事で解説した主なポイントは以下の通りです。
- 標準賞与額:千円未満切り捨て、上限額に注意
- 社会保険料:労使折半、最新の保険料率を使用
- 所得税:前月給与をもとに算出率の表から計算
なお、年4回以上賞与を支給する場合は、賞与ではなく「報酬」として扱われ、標準報酬月額の算定基礎に含まれるなど、取り扱いが変わります。賞与計算に不安がある場合や、特殊なケースに該当する場合は、労務に関する専門家である社会保険労務士に相談されることをおすすめします。
労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。