キャリアアップ助成金の申請を準備している方、あるいは申請したものの不支給通知を受け取ってしまった方にとって、「なぜ不支給になったのか」という疑問は大きな不安材料となります。実は、キャリアアップ助成金が不支給になる理由は明確に定められており、多くのケースで事前の準備不足や要件の理解不足が原因となっています。この記事では、実際の不支給事例をもとに主な5つの理由を解説し、確実に受給するための対策方法をお伝えします。
キャリアアップ助成金が不支給になる主な5つの理由
厚生労働省の支給要領に基づき、キャリアアップ助成金が不支給となる代表的な理由を5つに分類してご説明します。これらを理解することで、申請前のリスクを大幅に減らすことができます。
計画届の提出時期・内容の不備
最も多い不支給理由の一つが、計画届の提出時期に関する違反です。キャリアアップ助成金では、正規雇用等への転換を実施する日の前日までに「キャリアアップ計画」を労働局に提出する必要があります。
実際にあった不支給事例として、4月1日に有期契約社員を正社員に転換する予定だったにもかかわらず、3月28日に計画届を提出したケースがあります。書類の到達が転換実施日以降となってしまい、要件を満たさないと判断されました。
また、計画届に記載した内容と実際の転換内容が異なる場合も不支給となります。例えば以下のようなケースです。
- 計画届では「販売職→正社員」と記載したが、実際は「事務職→正社員」に転換した
- 転換予定人数を2名と記載したが、実際は3名転換した
- 賃金改定時期が計画と実態で異なっていた
厚生労働省の「キャリアアップ助成金のご案内」によれば、計画届は転換実施日の前日までに提出し、計画に変更が生じた場合は事前に変更届を提出する必要があると明記されています。
労働条件の要件未達
キャリアアップ助成金では、転換後の労働条件について厳格な要件が設けられています。特に注意が必要なのが賃金増額率の要件です。
正規雇用転換の場合、転換前の基本給と比較して5%以上の増額が必須となります。ここで注意すべきは、比較対象となる「基本給」の範囲です。通勤手当や家族手当などの諸手当を含めるか否かで計算結果が変わるため、実際には5%増額したつもりでも要件を満たしていないケースが発生します。
例えば、転換前の基本給が20万円で、転換後を21万円に設定した場合、増額率は5%となり一見要件を満たしているように見えます。しかし、転換前に皆勤手当5,000円が支給されていたにもかかわらず、転換後にこの手当が廃止されていた場合、実質的な賃金増加が不十分と判断されることがあります。
また、以下の要件も確認が必要です。
- 転換前に同じ事業所で6か月以上雇用されていること
- 短時間労働者の場合、週の所定労働時間が20時間以上であること
- 転換後6か月間継続して雇用されていること
就業規則・労働協約の不備
キャリアアップ助成金の支給には、正社員転換制度が就業規則に明記されていることが必須要件となっています。単に口頭での約束や個別の雇用契約書への記載だけでは認められません。
よくある不備として、以下のようなケースがあります。
- 就業規則に「正社員転換制度」の章や条項が存在しない
- 転換の要件(勤続年数、評価基準など)が具体的に記載されていない
- 就業規則の労働基準監督署への届出が行われていない(従業員10名以上の事業所)
- 従業員への就業規則の周知が不十分(掲示や配布がされていない)
実際の不支給事例では、就業規則に転換制度の記載はあったものの、その規程が作成されたのが転換実施後だったため、「転換時点で制度が存在していなかった」と判断されたケースもあります。計画届提出前に必ず就業規則の整備を完了させる必要があります。
雇用保険の加入要件違反
キャリアアップ助成金は雇用保険を財源とする制度であるため、雇用保険の適用事業所であること、そして転換対象者が雇用保険に加入していることが絶対条件となります。
以下のような場合、不支給となる可能性があります。
- 転換後の雇用保険加入手続きが遅延している
- 雇用保険の適用事業所でない(未加入事業所)
- 転換前の雇用保険加入期間が要件を満たしていない
- 過去5年以内に助成金の不正受給歴がある
特に注意が必要なのは、週20時間未満のパートタイム労働者から正社員へ転換する場合です。転換前は雇用保険の加入対象外であっても問題ありませんが、転換後は速やかに雇用保険に加入させる必要があります。この手続きに遅れが生じると、要件を満たさないと判断されることがあります。
賃金台帳・出勤簿の不整合
助成金申請では、賃金台帳、出勤簿、給与明細、銀行振込記録など複数の証拠書類を提出します。これらの書類間で数字や日付に矛盾がある場合、信頼性が疑われ不支給となります。
実際にあった不支給事例では、以下のような不整合が指摘されました。
- 賃金台帳の支給額と銀行振込記録の金額が異なっていた
- 出勤簿に記載された勤務日数と給与明細の勤務日数が一致しない
- タイムカードと出勤簿の記載内容に矛盾がある
- 残業代が適切に支払われておらず、労働基準法違反の疑いがある
特に、修正液や二重線での訂正が多い書類、明らかに後から作成したと思われる書類は、改ざんの疑いをかけられる可能性があります。日常的に正確な労務管理を行い、証拠書類を適切に保管しておくことが重要です。
【社労士解説】
実務上、最も多い不支給理由は「計画届の提出時期ミス」と「賃金増額率の計算ミス」です。特に賃金については、基本給のみを対象とするのか、諸手当を含めるのかで判断が分かれるケースが多く見られます。通勤手当や家族手当などの固定的手当は含めないのが原則ですが、職務手当や役職手当など業務に関連する手当をどう扱うかは、事前に労働局へ確認することをお勧めします。
不支給にならないための2つの対策
ここまで不支給理由を確認してきましたが、これらの多くは事前の準備と確認で防ぐことができます。確実に受給するための具体的な対策を2つご紹介します。
計画届提出前の準備チェックリスト
キャリアアップ助成金の申請をスムーズに進めるためには、転換実施の最低でも1か月前から準備を開始することが推奨されます。以下のチェックリストを活用してください。
【1か月前までに確認すべき項目】
- 就業規則に正社員転換制度が明記されているか
- 就業規則が労働基準監督署に届出されているか(10名以上の事業所)
- 転換対象者が雇用保険に加入しているか
- 転換対象者の雇用期間が6か月以上あるか
- 賃金台帳、出勤簿が適切に整備されているか
【計画届提出時に必要な書類】
- キャリアアップ計画書
- 就業規則または労働協約(転換制度が記載されたもの)
- 労働基準監督署の受理印がある就業規則届(10名以上の事業所)
- 対象労働者の雇用契約書
【賃金増額率のシミュレーション方法】
転換前の基本給と転換後の基本給を比較し、5%以上の増額となっているか必ず計算してください。計算式は以下の通りです。
増額率(%)=[(転換後の基本給-転換前の基本給)÷転換前の基本給]×100
諸手当の取り扱いについて不明な点がある場合は、計画届提出前に管轄の労働局へ電話で確認することができます。この事前確認が不支給リスクを大幅に下げる鍵となります。
社会保険労務士への事前相談
キャリアアップ助成金の申請は複雑な要件が多く、自社だけで完璧に対応することは容易ではありません。社会保険労務士に事前相談することで、不支給リスクを大幅に軽減できます。
【申請代行と事前診断の違い】
- 事前診断: 現状の就業規則や労務管理状況を確認し、助成金受給の可能性を判断するサービス。費用相場は3万円〜5万円程度
- 申請代行: 計画届の作成から支給申請まで一貫してサポートするサービス。費用相場は成功報酬型で助成金額の10〜20%程度
【社労士に相談するメリット】
- 就業規則の不備を事前に指摘してもらえる
- 賃金増額率の計算を正確に行ってもらえる
- 必要書類の漏れを防げる
- 労働局とのやり取りを代行してもらえる
- 不支給リスクを最小化できる
顧問契約を結んでいない企業でも、助成金申請のスポット相談を受け付けている社労士事務所は多数あります。特に初めて申請する場合は、専門家のサポートを受けることで安心して手続きを進めることができます。
まとめ
この記事では、キャリアアップ助成金が不支給になる主な理由と、その対策方法について解説しました。重要なポイントは以下の3つです。
- 計画届の提出時期: 転換実施日の前日までに必ず提出し、内容と実態を一致させる
- 要件の正確な理解: 賃金増額率5%以上、雇用保険加入、就業規則の整備など基本要件を確実に満たす
- 専門家の活用: 不安な点は社会保険労務士に事前相談し、不支給リスクを最小化する
キャリアアップ助成金の不支給理由は、事前準備と要件確認によって大半が防げるものです。計画段階から丁寧に準備を進めることで、受給の可能性を高めることができます。申請に不安がある場合や、より確実に受給したい場合は、専門家である社会保険労務士への相談をご検討ください。
労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。