「業務改善助成金は使いたいけれど、申請が難しそうで踏み出せない」――そんな経営者の声をよく耳にします。確かに助成金申請には複雑な要件や手続きがありますが、正しい手順を踏めば中小企業でも十分受給の可能性があります。本記事では、業務改善助成金の申請要件から具体的な手順、よくある失敗事例まで、社労士の視点で詳しく解説します。
業務改善助成金とは?対象となる企業の3つの条件
業務改善助成金の制度概要と目的
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内最低賃金の引上げを図ることを目的とした厚生労働省の助成金制度です。生産性向上に資する設備投資などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、その設備投資費用の一部が助成されます。
助成額と助成率は選択するコースによって異なりますが、概要は以下の通りです。
- 助成率:設備投資等にかかった費用の3/4~9/10(賃金引上げ額により変動)
- 助成上限額:30万円~600万円(引上げ人数と引上げ額により変動)
- 対象経費:機械設備、コンサルティング導入、人材育成・教育訓練など
対象となる設備投資や経費の例としては、POSレジシステムの導入、顧客管理システムの導入、専門家によるコンサルティング費用、従業員の教育訓練費用などが挙げられます。厚生労働省の「業務改善助成金のご案内」によると、これらの投資により業務効率化や付加価値向上を実現し、賃金引上げの原資を生み出すことが制度の狙いとされています。
申請できる企業の3つの要件
業務改善助成金を申請するには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
1. 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が一定範囲内であること
事業場内で最も低い時給(事業場内最低賃金)と、その地域の地域別最低賃金との差額が50円以内である必要があります。例えば、東京都の地域別最低賃金が1,113円の場合、事業場内最低賃金が1,163円以下であることが条件となります。
確認方法は、全従業員の時給を一覧にし、最も低い時給を特定します。月給制の場合は、「月給÷1か月の平均所定労働時間」で時給換算してください。
2. 事業場規模が一定人数以下であること
事業場の労働者数が30人以下であることが基本要件です(一部コースでは100人以下も対象)。ここでいう「事業場」とは、本社・支店・営業所など、物理的に独立した場所ごとの単位を指します。
よくある誤解として、「会社全体で30人以下」と勘違いされるケースがあります。正しくは申請する事業場単位で判断するため、本社が30人以下であれば、支店が40人いても本社分は申請可能です。
3. 解雇や賃金引下げ等の不適正な行為がないこと
申請前6か月から支給申請日までの間に、以下のような不適正な行為がないことが求められます。
- 事業主都合による解雇や退職勧奨を行っていない
- 賃金を引き下げていない
- 事業規模の縮小を行っていない
- 労働保険料の未納がない
社労士として多くの申請をサポートしてきた経験から、労働保険料の確認を怠ると申請段階で気づくケースが多いです。申請前に必ず労働局で納付状況を確認しておくことをおすすめします。
業務改善助成金の申請から受給までの流れ
【ステップ1-2】事前準備とコース選択
申請の第一歩は、自社の現状把握とコース選択です。
自社の最低賃金額の確認方法
まず、全従業員の時給を一覧化し、事業場内最低賃金を特定します。月給制や年俸制の従業員がいる場合は、以下の計算式で時給換算してください。
時給 = 月給 ÷ (1年間の所定労働時間 ÷ 12か月)
パートやアルバイトだけでなく、正社員も含めた全員が対象になる点に注意が必要です。
30円・45円・60円・90円コースの選び方
業務改善助成金には、事業場内最低賃金の引上げ額に応じて4つのコースがあります。
- 30円コース:助成上限30万円(助成率3/4)
- 45円コース:助成上限45万円(助成率3/4)
- 60円コース:助成上限60万円(助成率3/4)
- 90円コース:助成上限90万円(助成率4/5)
引上げ額が大きいほど助成額も増えますが、人件費負担も増加します。自社の財務状況と生産性向上の見込みを勘案して、無理のない範囲でのコース選択が重要です。
賃金引上げ計画の策定ポイント
賃金引上げの時期と対象者を明確にします。引上げは助成金交付決定後に実施する必要があるため、スケジュール管理が重要です。対象者は事業場内最低賃金で働く全員が対象となります。
設備投資計画の立て方
生産性向上に資する設備投資を計画します。具体例としては、以下のようなものがあります。
- POSレジシステムや顧客管理システムの導入
- 作業効率化のための機械設備の購入
- 業務改善に関する専門家のコンサルティング
- 従業員教育のための外部研修費用
ただし、助成金が交付される保証はないため、助成金を前提とした無理な投資は避けるべきです。
【ステップ3-5】交付申請から実績報告まで
交付申請書の提出(労働局への提出)
事業場を管轄する都道府県労働局に交付申請書を提出します。必要書類には以下が含まれます。
- 業務改善助成金交付申請書
- 事業場内最低賃金を確認できる書類(賃金台帳等)
- 設備投資等の経費に関する見積書
- 賃金引上げ計画書
申請期限は予算の範囲内での先着順となる場合が多いため、早めの申請が推奨されます。
設備投資の実施と証拠書類の保管
交付決定通知を受け取った後、計画通りに設備投資を実施します。交付決定前に購入したものは助成対象外となるため、順序を間違えないよう注意が必要です。
よくある相談事例として、「納期の関係で交付決定前に発注してしまった」というケースがあります。この場合、その経費は助成対象とならず、申請が無駄になる可能性があります。
領収書、納品書、銀行振込の記録など、支払いを証明する書類は必ず保管してください。
賃金引上げの実施(就業規則変更が必要な場合)
計画通りに事業場内最低賃金を引き上げます。就業規則に賃金規定がある場合は、就業規則の変更手続きが必要です。変更後は労働基準監督署への届出を忘れずに行ってください。
実績報告書の作成と提出期限
全ての取組が完了したら、実績報告書を提出します。提出期限は事業実施期限から1か月以内が一般的です。提出書類には以下が含まれます。
- 業務改善助成金実績報告書
- 経費の支払いを証明する書類(領収書等)
- 賃金引上げを確認できる書類(賃金台帳等)
- 就業規則変更届の写し(変更した場合)
支給決定までの期間目安
実績報告書の提出後、労働局による審査が行われます。支給決定までの期間は通常2~3か月程度とされていますが、申請状況により前後する場合があります。
よくあるつまずきポイント3つ
- 交付決定前の設備購入:前述の通り、順序を間違えると助成対象外になります
- 賃金引上げのタイミング:交付決定後かつ事業実施期限内に引上げを完了する必要があります
- 書類の不備:賃金台帳の記載漏れや領収書の紛失など、書類管理が不十分なケースが多く見られます
まとめ
業務改善助成金の申請は、要件確認と計画的な準備が成功の鍵です。特に事業場内最低賃金の正確な把握と、自社の状況に合った適切なコース選択が重要になります。
申請書類の作成や要件判断に不安がある場合は、助成金に詳しい社労士への相談も検討してみてください。計画的に進めれば、賃金引上げと生産性向上を両立させる強力な支援策となります。
労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。