助成金申請前に整えるべき労務体制

助成金の申請をしたものの、労務体制の不備を理由に不支給となってしまうケースは少なくありません。厚生労働省の調査によると、助成金が不支給となる原因の約8割は、申請前の労務管理体制が整っていないことに起因しています。せっかく時間をかけて申請書類を準備しても、基本的な労務体制が整っていなければ受給できないのです。

この記事では、助成金申請前に必ず整えておくべき労務体制のポイントと、実際に不支給となった事例をもとに、社会保険労務士の視点から具体的な対策をご紹介します。

この記事でわかること

  • 助成金申請に必要な5つの労務体制の要件
  • 労務体制の不備による不支給リスクと実例
  • 申請前に確認すべき具体的なチェック項目

助成金申請に必要な労務体制の3つの要件

助成金を受給するためには、単に申請要件を満たすだけでなく、日常的な労務管理が適正に行われていることが前提となります。ここでは特に重要な3つの要件について、具体的なチェックポイントとともに解説します。

就業規則と雇用契約書の整備

労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成と届出が義務付けられています。しかし助成金申請においては、従業員数に関わらず就業規則の整備が求められるケースが多くあります。

就業規則で必ず記載すべき事項は以下の通りです。

  • 始業・終業時刻:休憩時間、休日、休暇に関する事項
  • 賃金の決定・計算・支払方法:賃金の締切日と支払日
  • 退職に関する事項:解雇の事由を含む

また、雇用契約書には労働条件通知書としての機能も求められます。労働基準法第15条に基づき、賃金、労働時間、就業場所などを明示する必要があります。口頭での約束だけでは助成金審査において不備とみなされる可能性が高いため、必ず書面で交付しましょう。

チェックポイント

  • 就業規則が最新の法改正に対応しているか
  • 全従業員に就業規則を周知しているか
  • 雇用契約書に労働条件が漏れなく記載されているか
  • パート・アルバイトを含む全従業員と契約書を交わしているか

労働時間・賃金管理の適正化

助成金申請では、労働時間の適正な把握と賃金の正確な計算が審査の重要なポイントとなります。特にキャリアアップ助成金や業務改善助成金では、賃金台帳やタイムカードの提出が必須です。

労働安全衛生法の改正により、2019年4月から全ての使用者に労働時間の客観的な把握が義務付けられています。タイムカードやICカード、パソコンの使用時間記録など、客観的な方法で管理することが求められます。自己申告制のみでは認められないケースが増えています。

賃金計算については、以下の点に注意が必要です。

  • 残業代の適正な計算:法定労働時間を超える労働には割増賃金(25%以上)の支払いが必要
  • 最低賃金の遵守:都道府県ごとの地域別最低賃金を下回っていないか
  • 賃金台帳の記載事項:氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、基本給、手当などを正確に記載

実際の相談事例として、製造業のA社では、タイムカードに打刻漏れが多く、上司の承認印のみで労働時間を管理していました。助成金申請時に労働局から指摘を受け、過去1年分のタイムカードを再整備することになりました。結果として申請が半年遅れ、事業計画にも影響が出てしまいました。

社会保険・労働保険の加入状況

雇用保険法や健康保険法に基づき、要件を満たす従業員は社会保険・労働保険への加入が義務付けられています。助成金申請においては、この加入状況が厳格にチェックされます。

加入義務の基準

雇用保険は、週20時間以上勤務し31日以上の雇用見込みがある労働者が対象です。社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、正社員の4分の3以上の労働時間・日数で働く労働者が対象となります。また、従業員数101人以上の企業では、週20時間以上で月額8.8万円以上などの条件を満たすパート・アルバイトも加入対象です。

未加入者がいる場合、助成金の審査で不支給となるだけでなく、最大2年分の保険料をさかのぼって納付しなければならないリスクもあります。申請前に全従業員の加入状況を必ず確認しましょう。

確認すべき書類

  • 雇用保険被保険者証(全従業員分)
  • 社会保険の資格取得確認通知書
  • 労働保険概算・確定保険料申告書の控え

労務体制が整っていない場合の不支給リスク

労務体制の不備は、助成金の不支給に直結する重大なリスク要因です。ここでは実際に不支給となった事例をもとに、どのようなケースで問題が発生するのかを見ていきましょう。

よくある不支給理由3選

1. 就業規則と実態の乖離

就業規則には「所定労働時間は8時間」と記載されているにもかかわらず、実際には毎日10時間労働が常態化しているケースです。建設業のB社では、助成金申請時の実地調査で就業規則と実態が異なることが発覚し、不支給となりました。書類上の整備だけでなく、実際の運用が伴っていることが重要です。

2. 労働時間の記録不備

タイムカードの打刻忘れが頻繁にあり、手書きでの修正が多い場合、客観的な労働時間管理ができていないと判断されます。飲食業のC社では、店長の記憶に基づいて労働時間を記録していたため、証拠書類として認められず不支給となりました。

3. 社会保険の未加入

週30時間勤務のパート従業員を社会保険に加入させていなかったケースです。小売業のD社では、助成金申請後の調査で未加入者が発覚し、不支給となっただけでなく、過去2年分の保険料納付を求められました。

申請取り下げになるケース

不支給までには至らなくても、申請を取り下げざるを得ない状況も少なくありません。特に多いのが、申請後に労働局から追加資料の提出を求められた際、適切な書類が用意できないケースです。

例えば、賃金台帳の記載内容が不十分だったり、雇用契約書の記載事項が労働条件と一致していなかったりする場合、修正に時間がかかり申請期限を過ぎてしまうことがあります。

また、申請後に労務管理の不備が発覚した場合、企業イメージの低下や労働基準監督署からの指導につながる可能性もあります。助成金を受給できないだけでなく、企業運営そのものにも影響が及ぶリスクがあるのです。

事前チェックの重要性

申請前に社会保険労務士などの専門家に労務体制を診断してもらうことで、これらのリスクを大幅に減らすことができます。書類の形式的な整備だけでなく、実際の運用が法令に適合しているかを確認することが、助成金受給への近道となります。

まとめ

助成金申請において、労務体制の整備は受給の大前提となります。就業規則や雇用契約書の整備、労働時間・賃金管理の適正化、社会保険・労働保険の適切な加入という3つの要件を満たすことで、不支給のリスクを大きく減らすことができます。

重要なポイントをまとめると、以下の3点です。

  • 書類と実態を一致させる:就業規則や雇用契約書を整備するだけでなく、実際の運用も法令に適合させる
  • 客観的な記録を残す:労働時間はタイムカードなど客観的な方法で管理し、改ざんできない形で保管する
  • 専門家に事前相談する:申請前に社会保険労務士に労務体制を診断してもらい、不備があれば早期に改善する

労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

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