勤怠管理デジタル化のメリットと注意点

紙のタイムカードや手書きの出勤簿で勤怠管理を行っている中小企業の経営者の方から、「集計ミスが心配」「残業代の計算が不安」というご相談をよくいただきます。勤怠管理のデジタル化は、こうした課題を解決する有効な手段の一つです。この記事では、社労士の視点から勤怠管理デジタル化の具体的なメリットと、導入時に注意すべきポイントを解説します。法改正対応や助成金活用の可能性についても触れますので、自社に合った判断材料としてお役立てください。

勤怠管理をデジタル化する2つのメリット

労働時間の正確な把握と法令遵守

勤怠管理システムを導入すると、従業員の出退勤時刻が自動で記録されます。これにより、労働時間の正確な把握が可能になり、残業代の未払いリスクを軽減できます。

2023年4月から中小企業にも月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率50%以上が適用されています。紙のタイムカードでは集計ミスが発生しやすく、この法改正への対応が難しいケースがあります。デジタル化により、時間外労働時間の集計精度が向上し、適切な割増賃金の支払いにつながります。

また、厚生労働省のガイドライン「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、使用者が労働時間を適正に把握する責務を明記しています。勤怠管理システムの導入は、このガイドラインが求める客観的な記録方法の一つとして認められています。

【顧問先での導入事例】製造業A社(従業員30名)では、紙のタイムカードによる管理で月平均3-5件の集計ミスが発生していました。勤怠管理システム導入後は集計ミスがほぼゼロになり、労働基準監督署の調査時にもスムーズにデータを提出できるようになりました。残業時間の可視化により、長時間労働の是正にも効果が見られています。

集計業務の効率化とコスト削減

紙の勤怠管理では、月末に全従業員分のタイムカードを手作業で集計する必要があります。従業員数が増えるほど、この作業には時間がかかります。

勤怠管理システムを導入すると、出退勤データが自動的に集計されます。顧問先の事例では、従業員20名規模の企業で月末の給与計算準備作業が約8時間から2時間に短縮されました。これは年間で約72時間の業務時間削減に相当します。

集計ミスによる修正作業も大幅に減少します。紙の管理では読み間違いや転記ミスが発生しやすく、従業員からの問い合わせ対応にも時間を取られていました。デジタル化により、こうした手戻り作業が減り、人事担当者は本来の業務に集中できるようになります。

人件費削減効果も見込めます。月8時間の作業削減を時給2,000円で計算すると、月16,000円、年間192,000円のコスト削減につながります。従業員数が多い企業ほど、この効果は大きくなります。

デジタル化する際の2つの注意点

システム選定と従業員への周知

勤怠管理システムは数多くの製品があり、機能や操作性もさまざまです。自社の従業員の年齢層やITリテラシーに応じた選択が重要です。

従業員の年齢層が高い、またはITに不慣れな方が多い場合は、操作がシンプルなシステムを選ぶことをお勧めします。スマートフォンでの打刻に抵抗がある従業員がいる場合は、ICカードや指紋認証など複数の打刻方法に対応したシステムも検討しましょう。

多くのシステムは無料トライアル期間を設けています。実際に使ってみて、自社の業務フローに合うか確認することが大切です。導入後に「使いにくい」という理由で定着しなかったケースもあります。

導入時には従業員への説明会を開催し、操作マニュアルを準備しましょう。よくある失敗例として、事前説明が不足したまま導入し、従業員から「いきなり変わって困る」という反発を受けるケースがあります。「なぜ変更するのか」「どんなメリットがあるのか」を丁寧に説明することで、スムーズな移行が可能になります。

個人情報管理と就業規則の整備

勤怠データには従業員の出退勤時刻という個人情報が含まれます。このデータの取扱いには法的な注意が必要です。

労働基準法109条では、賃金台帳などの記録を3年間保存する義務が定められています。勤怠データもこの対象に含まれるため、システム上でのデータ保管期間の設定が必要です。また、データへのアクセス権限を適切に設定し、必要な担当者のみが閲覧できるようにしましょう。

就業規則への勤怠管理方法の明記も重要です。労働基準法89条では、始業・終業の時刻に関する事項を就業規則に記載することが義務付けられています。勤怠管理の方法をデジタルシステムに変更する場合は、就業規則にその旨を記載する必要があります。

労働基準監督署の調査時には、勤怠データの提出を求められることがあります。システムから必要な期間のデータをすぐに出力できるよう、日頃から準備しておくことが大切です。

【社労士解説】就業規則を変更する際は、労働者の過半数代表者の意見を聴く必要があります(労働基準法90条)。勤怠管理方法の変更は従業員の働き方に関わる重要な事項ですので、意見聴取の手続きを適切に行い、変更後の就業規則は労働基準監督署に届け出ましょう。

まとめ

勤怠管理のデジタル化は、労働時間の正確な把握と業務効率化という2つの大きなメリットがあります。特に法改正への対応や労働基準監督署対策の観点からも、デジタル化は有効な手段と言えます。

一方で、システム選定時には従業員の使いやすさを重視し、導入時には丁寧な説明が必要です。また、個人情報管理や就業規則の整備といった法的要件もクリアする必要があります。

IT導入補助金などの助成金を活用できる可能性もありますが、要件を満たす必要があり、受給を保証するものではありません。自社の状況に応じて、社労士などの専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

関連記事

カテゴリー
アーカイブ