労務管理が会社の利益を左右する理由

「労務管理は総務の仕事で、経営者が関わる必要はない」「売上を上げることが最優先で、労務管理は後回しでいい」こんな風に考えていませんか?実は、労務管理の良し悪しが会社の利益に直結することをご存知でしょうか。

適切な労務管理を行っていない企業では、予期せぬ労務トラブルによる損失や、従業員のモチベーション低下による生産性の悪化が起こりがちです。一方で、労務管理に力を入れている企業は、従業員の定着率が高く、生産性も向上する傾向にあります。この記事では、労務管理と利益の関係性を具体的なデータとともに解説します。

労務管理の不備が引き起こす3つの損失

労務管理を軽視すると、会社にどのような損失が発生するのでしょうか。ここでは、実際に多くの中小企業が直面している3つの損失パターンをご紹介します。

労務トラブルによる直接的コスト

労務管理の不備が最も顕著に表れるのが、未払い残業代や労働トラブルによる訴訟費用です。厚生労働省の「監督指導による賃金不払残業の是正結果」によると、2022年度に是正指導を受けた企業が支払った割増賃金の総額は約125億円に上ります。

当事務所にご相談いただいたある製造業の事例では、タイムカードの管理が不十分だったため、退職した従業員から2年分の未払い残業代約300万円を請求されました。さらに弁護士費用や訴訟対応に費やした時間を含めると、総額で400万円以上の損失となりました。このケースでは、適切な勤怠管理システムを導入していれば、月額数万円のコストで防げた問題でした。

また、労働基準監督署からの是正勧告を受けた場合、改善措置に加えて社内体制の見直しも必要となり、その対応だけで数十万円から数百万円のコストが発生するケースも珍しくありません。

生産性低下による機会損失

労務管理の不備は、従業員の離職率上昇とモチベーション低下を招きます。厚生労働省の「雇用動向調査」によると、労働条件や職場環境に不満を持つ従業員の離職率は、満足している従業員と比較して約3倍高いというデータがあります。

従業員が1人辞めると、採用コスト、教育コスト、そして戦力が整うまでの期間の生産性低下など、総額で年収の50%から150%のコストがかかると言われています。年収400万円の従業員であれば、200万円から600万円もの損失です。

さらに深刻なのは、残った従業員のモチベーション低下です。労働時間管理が曖昧で長時間労働が常態化している職場では、従業員の集中力が低下し、ミスやクレームが増加します。中小企業庁の調査では、従業員満足度が低い企業は高い企業と比べて、労働生産性が約20%低いという結果が出ています。

企業信用の毀損リスク

労務トラブルは、企業の社会的信用を大きく損なうリスクがあります。近年ではSNSの普及により、労働環境に関する悪い評判があっという間に拡散される時代です。

実際に、ある小売業の企業では、労働基準法違反がインターネット上で話題となり、求人への応募が激減しました。採用難に陥っただけでなく、取引先からも「労務管理ができていない会社」というレッテルを貼られ、新規取引の機会を逃すことになりました。

また、金融機関からの評価も下がります。銀行は融資審査の際に、企業のコンプライアンス体制をチェックします。労務管理が不適切な企業は、経営リスクが高いと判断され、融資条件が不利になるケースもあるのです。

労務管理の不備は、直接的なコストだけでなく、生産性低下や企業信用の毀損という形で、長期的に会社の利益を圧迫し続けます。

適切な労務管理がもたらす5つの利益効果

一方で、適切な労務管理を行うことで、会社には具体的にどのような利益がもたらされるのでしょうか。ここでは5つの効果を詳しく解説します。

従業員の定着率向上による採用コスト削減

適切な労働時間管理、明確な評価制度、働きやすい環境づくりを行うことで、従業員の定着率は大きく向上します。厚生労働省の「労働経済動向調査」によると、働きやすい職場環境を整えている企業の離職率は、業界平均と比較して約30%低いというデータがあります。

例えば、年間3人の従業員が離職している企業が、労務管理の改善により離職を1人に抑えられたとします。1人あたりの採用・教育コストを300万円とすると、年間600万円のコスト削減になります。この効果は毎年継続するため、5年間で3,000万円もの削減効果が生まれます。

さらに、定着率が高い企業は従業員のスキルが蓄積され、業務品質も向上します。ベテラン社員が増えることで、新人教育の効率も上がり、組織全体の生産性向上につながるのです。

労働生産性の向上と業務効率化

労務管理を適切に行うことで、従業員一人ひとりの働き方が最適化され、労働生産性が向上します。当事務所が支援したある運送業の企業では、労働時間の適正管理と業務フローの見直しを行った結果、残業時間が月平均30時間から15時間に削減されました。

この企業では、残業代の削減だけでなく、従業員の疲労が軽減されたことでミスが減少し、顧客満足度も向上しました。その結果、リピート率が15%上昇し、売上増加にもつながったのです。

また、就業規則や労働契約の明確化により、従業員が安心して働けるようになると、仕事へのモチベーションが高まります。日本生産性本部の調査では、働きやすい環境を整えた企業は、そうでない企業と比較して労働生産性が約18%高いという結果が出ています。

助成金・補助金の活用可能性

適切な労務管理を行っている企業は、国や自治体が提供する各種助成金・補助金を活用できる可能性が広がります。多くの助成金制度では、労働関係法令の遵守が受給要件となっているためです。

例えば、「キャリアアップ助成金」「人材開発支援助成金」「働き方改革推進支援助成金」などは、適切な労務管理体制が整っていることが前提条件です。これらの助成金を活用することで、従業員の教育研修費用や設備投資の一部を補助してもらえます。

ある建設業の企業では、就業規則の整備と労働時間管理システムの導入を行ったことで、働き方改革推進支援助成金の受給要件を満たし、約200万円の助成金を受給できました。これにより、労務管理体制の構築にかかったコストの大部分を回収することができたのです。

ただし、助成金は受給要件を満たす必要があり、申請すれば確実に受給できるものではありません。また、受給後も一定期間の報告義務があることを理解しておく必要があります。

コンプライアンス強化による企業価値向上

適切な労務管理は、企業のコンプライアンス体制を強化し、対外的な信用を高めます。取引先や金融機関は、法令遵守がしっかりしている企業を高く評価します。

実際に、大手企業との取引では、サプライチェーン全体のコンプライアンスが重視されるようになっています。労務管理が適切に行われていることを示す書類の提出を求められるケースも増えており、体制が整っていない企業は取引の機会を失うこともあります。

また、金融機関の融資審査でも、労務管理の状況がチェックされます。就業規則が整備され、適切な労働時間管理が行われている企業は、経営の安定性が高いと評価され、融資条件が有利になる傾向があります。

さらに、求職者にとっても、労務管理がしっかりしている企業は魅力的です。採用市場での競争力が高まり、優秀な人材を確保しやすくなります。

経営者の労務不安解消と本業集中

労務管理体制を整えることで、経営者が抱える労務に関する不安が解消され、本業に集中できるようになります。多くの中小企業経営者は、「いつ労働基準監督署から指導が入るか」「従業員から訴えられないか」という不安を抱えています。

当事務所にご相談いただいた経営者の多くが、「夜も眠れないほど労務の問題を心配していた」と話されます。しかし、就業規則の整備や勤怠管理システムの導入など、基本的な労務管理体制を整えることで、こうした不安から解放されます。

経営者が労務の不安から解放されると、事業戦略の立案や営業活動など、本来注力すべき業務に時間を使えるようになります。ある製造業の経営者は、労務管理を専門家に任せたことで、月に約20時間を新規事業の開拓に充てられるようになり、結果的に売上が15%増加したと話されていました。

適切な労務管理は、コスト削減だけでなく、生産性向上、企業価値の向上、そして経営者の時間的余裕の創出という、多面的な利益効果をもたらします。

【社労士からのアドバイス】

労務管理は「コスト」ではなく「投資」です。適切な労務管理に年間100万円を投資すれば、労務トラブルの回避、生産性向上、従業員定着によって、数倍から数十倍のリターンが期待できます。特に中小企業では、1人の従業員の離職が事業継続に大きな影響を与えるため、早期の体制整備が競争優位につながります。

中小企業が今すぐ始められる労務管理の利益改善策

ここまで労務管理と利益の関係を見てきましたが、では具体的にどこから手をつければよいのでしょうか。中小企業が今すぐ始められる実践的な改善策をご紹介します。

まず着手すべき労務管理の優先項目

労務管理の改善は、以下の3つの項目から着手することをお勧めします。これらは法令遵守の基本であると同時に、労務トラブルの予防効果が高い項目です。

  • 労働時間の適正管理:タイムカードやクラウド勤怠システムを導入し、始業・終業時刻を正確に記録します。残業時間の上限規制(月45時間、年360時間)を守ることで、未払い残業代のリスクを回避できます。
  • 賃金制度の明確化:基本給、各種手当、残業代の計算方法を明確にし、従業員に説明します。給与明細も詳細に記載することで、賃金に関するトラブルを防げます。
  • 就業規則の整備:常時10人以上の従業員を雇用する企業は就業規則の作成・届出が義務です。10人未満でも、労働条件を明確にするために作成をお勧めします。

これらの基本項目を整備するだけで、労務トラブルのリスクは大幅に低減されます。導入コストも、クラウド勤怠システムなら月額数千円から、就業規則の作成は数十万円程度で可能です。

専門家活用によるコストパフォーマンス

労務管理の専門知識を社内で身につけるには時間とコストがかかります。そこで、社会保険労務士などの専門家を活用することで、効率的に体制を整えることができます。

顧問社労士の費用は月額3万円から5万円程度が一般的ですが、この投資で得られる効果は非常に大きいものがあります。法改正への迅速な対応、助成金の活用支援、労務トラブルの予防相談など、経営者が自力で対応すると膨大な時間がかかる業務を任せられます。

また、スポット相談であれば、就業規則の作成や労務診断など、必要な時だけ依頼することも可能です。自社の状況に応じて、適切な専門家活用の方法を選択することをお勧めします。

まずは労働時間管理、賃金制度、就業規則の3つの基本から着手し、必要に応じて専門家の力を借りることで、費用対効果の高い労務管理体制を構築できます。

まとめ

この記事では、労務管理が会社の利益に与える影響について解説しました。重要なポイントは以下の3つです。

  • 労務管理の不備は直接的コスト・機会損失・信用毀損の3つの損失を生む:未払い残業代や訴訟費用、離職率上昇による生産性低下、企業信用の低下など、長期的に会社の利益を圧迫します。
  • 適切な労務管理は5つの利益効果をもたらす:採用コスト削減、生産性向上、助成金活用、企業価値向上、経営者の本業集中という多面的な効果があります。
  • 中小企業は基本項目から着手し専門家を活用する:労働時間管理、賃金制度、就業規則の3つから始め、社労士などの専門家の力を借りることで効率的に体制を整えられます。

労務管理は「コスト」ではなく「投資」です。適切な管理が利益向上に直結することを理解し、まずは現状の労務管理体制を診断することから始めてみてはいかがでしょうか。中小企業こそ、早期の体制整備が競争優位につながります。

労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

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