最新の労働法改正まとめ:今年中小企業が対応すべき事項

2024年も複数の労働法改正が施行され、中小企業にも対応が求められています。「改正情報が多すぎてどれが自社に関係するのか分からない」「対応しないとどんなリスクがあるのか」といった不安を抱えている経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、今年中小企業が優先的に対応すべき労働法改正を時系列で整理し、未対応の場合の罰則リスクや具体的な対応方法を解説します。法改正対応の参考にしていただければ幸いです。

2024年に中小企業が対応すべき主要な労働法改正2つ

2024年に施行される労働法改正の中で、中小企業が特に注意すべき2つの改正について解説します。いずれも全ての企業に適用される重要な改正ですので、早めの対応をおすすめします。

労働条件明示のルール強化(2024年4月施行)

2024年4月1日から、労働条件の明示ルールが強化されました。この改正は労働基準法施行規則の改正によるもので、厚生労働省の通達「労働基準法施行規則の一部を改正する省令の施行について」(令和6年3月29日基発0329第2号)に基づいています。

改正内容の概要

従来は労働契約締結時に就業場所や業務内容を明示する義務がありましたが、今回の改正により以下の2点が追加されました。

  • 就業場所・業務の変更の範囲の明示
  • 雇用管理上の措置について(派遣労働者に関する事項)

特に重要なのが「変更の範囲」の明示です。これは将来的に配置転換や業務変更が予定される場合、その範囲をあらかじめ明示しておく必要があるということです。例えば「全国転勤の可能性がある」「営業職から事務職への配置転換がある」といった情報を、雇用契約書に記載しなければなりません。

対象企業と対応方法

この改正はすべての企業が対象となります。中小企業も例外ではありません。対応としては、既存の雇用契約書のフォーマットを見直し、以下の項目を追加する必要があります。

  • 雇入れ直後の就業場所・業務内容
  • 変更の範囲(転勤や配置転換の可能性がある場合)

「当面は本社勤務だが、将来的に支店勤務の可能性がある」といった場合は、その旨を明記する必要があります。変更の範囲がない場合は「変更なし」と記載します。

実務上の注意点

2024年4月1日以降に締結される労働契約から適用されますが、既存の従業員についても、雇用契約を更新する際や労働条件を変更する際には、新しいルールに従った明示が求められる可能性があります。早めに雇用契約書のひな形を見直し、今後の採用活動に備えておくことをおすすめします。

時間外労働の上限規制適用拡大(2024年4月施行)

2024年4月1日から、時間外労働の上限規制が猶予されていた業種にも適用が開始されました。この改正は働き方改革関連法の一環として、2019年から段階的に実施されてきたものです。

適用対象業種

今回新たに上限規制の対象となったのは以下の業種です。

  • 建設事業
  • 自動車運転の業務
  • 医師
  • 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業

これらの業種は人手不足や業務の特性から、2024年3月末まで上限規制の適用が猶予されていましたが、2024年4月からは原則として他の業種と同様の規制が適用されます。ただし、自動車運転業務については年960時間の特例が設けられています。

上限規制の内容

時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情がある場合でも、以下の上限を超えることはできません。

  • 年720時間以内
  • 複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
  • 月100時間未満(休日労働を含む)

違反時の罰則

上限規制に違反した場合、労働基準法第119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働基準監督署から是正勧告を受け、改善が見られない場合は企業名が公表されるケースもあります。

中小企業が準備すべき内容

対象業種の中小企業は、以下の対応を急ぐ必要があります。

  1. 現在の時間外労働時間の実態把握
  2. 36協定の見直しと労働基準監督署への届出
  3. 勤怠管理システムの導入または改善
  4. 業務効率化や人員配置の見直し

特に建設業や運送業では、業務の繁閑に応じて長時間労働が発生しやすい傾向があります。法改正に対応するためには、業務プロセスの見直しや、協力会社との連携強化なども検討する必要があるでしょう。

法改正未対応で起こるリスクと実際の事例

労働法改正に対応しない場合、企業にはどのようなリスクがあるのでしょうか。実際の事例を交えながら、具体的なリスクと予防策を解説します。

労基署の是正勧告・罰則のリスク

労働基準監督署による監督指導は年々厳格化しており、法改正への対応状況も重点的にチェックされています。是正勧告を受けた場合、企業にとって大きな負担となる可能性があります。

是正勧告の流れ

労働基準監督署の調査は、定期監督、申告監督、災害時監督の3つのパターンで実施されます。調査の結果、法令違反が認められた場合、以下の流れで是正勧告が行われます。

  1. 労働基準監督官による臨検(立入調査)
  2. 是正勧告書の交付
  3. 是正報告書の提出期限の指定
  4. 再監督による確認

是正勧告に従わない場合や、重大な違反がある場合は、送検され刑事罰が科される可能性があります。厚生労働省は毎年、労働基準関係法令違反により送検された企業名を公表しており、企業の社会的信用に大きな影響を与えます。

実際の指導事例

令和5年度の厚生労働省の発表によると、時間外労働の上限規制違反で是正勧告を受けた企業は全国で数千件に上ります。特に建設業や運送業では、猶予期間終了前から準備不足が指摘されていました。

ある中規模の建設会社では、36協定の届出は行っていたものの、実際の労働時間管理が不十分で、月80時間を超える時間外労働が常態化していました。労働基準監督署の調査により発覚し、是正勧告を受けただけでなく、6か月間にわたる改善指導を受ける結果となりました。

【社労士解説】是正勧告を受ける前にチェックすべきポイント

是正勧告を受けないためには、以下のポイントを定期的にチェックすることが重要です。

  • 雇用契約書や労働条件通知書が最新の法令に準拠しているか
  • 36協定が適切に締結され、届出されているか
  • 実際の労働時間が36協定の範囲内に収まっているか
  • 時間外労働の割増賃金が正しく計算・支払われているか
  • 年次有給休暇の取得状況が法定基準を満たしているか

特に労働時間の把握については、タイムカードや勤怠管理システムの記録と実態が乖離していないか、注意が必要です。管理職が部下の残業を把握していない、持ち帰り残業が常態化しているといった状況は、是正勧告の対象となる可能性が高いと言えます。

従業員とのトラブル事例

法改正への対応不足は、労働基準監督署の指導だけでなく、従業員との間でトラブルを引き起こすリスクもあります。近年、労働条件に関する従業員からの相談や請求が増加傾向にあります。

労働条件明示不備による未払い請求の実例

実際にあった相談事例をご紹介します。ある従業員20名程度の小売業の会社では、採用時に口頭で「店長候補」として採用し、将来的な配置転換の可能性について雇用契約書に明記していませんでした。

入社から3年後、会社は業績不振により別店舗への異動を命じましたが、従業員は「採用時に転勤の説明を受けていない」として異動を拒否。さらに「労働条件の一方的な変更だ」として、弁護士を通じて会社に対応を求めてきました。

結果として、会社は異動命令を撤回せざるを得ず、人員配置の計画が大きく狂ってしまいました。もし採用時に「店舗間の異動の可能性がある」ことを雇用契約書に明記していれば、このようなトラブルは避けられた可能性が高いと考えられます。

退職時のトラブル増加傾向

最近では、退職時に未払い残業代を請求されるケースも増えています。労働条件明示が不十分だったために、労働時間の記録があいまいになっているケースでは、従業員側の主張が認められやすい傾向があります。

特に注意が必要なのは、退職後2年間(2020年4月以降は3年間)は未払い賃金の請求が可能という点です。退職後しばらくしてから、労働基準監督署への申告や弁護士を通じた請求が行われるケースもあります。

予防策:就業規則と雇用契約書の定期見直し

こうしたトラブルを予防するためには、以下の対策が有効です。

  • 雇用契約書のフォーマットを定期的に見直し、法改正に対応する
  • 就業規則を最新の法令に合わせて改定し、従業員に周知する
  • 労働時間の記録を正確に残し、管理職も含めて実態を把握する
  • 従業員からの相談窓口を設け、不満や疑問を早期に把握する

法改正への対応は、単なる法令遵守というだけでなく、従業員との信頼関係を維持し、離職率を下げることにもつながります。特に人手不足が深刻な業種では、既存従業員の定着が重要な経営課題となっています。

まとめ

この記事では、2024年に中小企業が対応すべき労働法改正について解説しました。重要なポイントは以下の3つです。

  • 労働条件明示ルールの強化:2024年4月から、就業場所・業務変更の範囲の明示が義務化されました。雇用契約書のフォーマットを早急に見直す必要があります。
  • 時間外労働の上限規制適用拡大:建設業や運送業など猶予されていた業種も、2024年4月から上限規制の対象となりました。36協定の見直しと労働時間管理の徹底が求められます。
  • 未対応のリスク:是正勧告や罰則だけでなく、従業員とのトラブルにも発展する可能性があります。就業規則や雇用契約書の定期的な見直しが予防策として有効です。

法改正対応は期限厳守が重要です。不明な点や対応に不安がある場合は、社労士に早めに相談し、就業規則や雇用契約書の見直しを計画的に進めましょう。労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

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