2020年の法改正により、同一労働同一賃金の施行が中小企業にも適用されました。厚生労働省の調査によると、法施行後に労働局への相談件数は前年比で約1.5倍に増加しており、中小企業でもトラブルが顕在化しています。「パート社員から待遇差について質問されたがどう答えればよいか分からない」「就業規則が古いままで対応できていない」といった声が多く聞かれます。しかし、適切な社内整備を行うことでトラブルのリスクは大幅に低減できます。この記事では、同一労働同一賃金でトラブルになりやすいパターンと、具体的な予防策について解説します。
同一労働同一賃金でトラブルになる2つのパターン
同一労働同一賃金に関するトラブルは、大きく分けて2つのパターンがあります。いずれも事前の準備不足が原因となるケースが多いため、自社の状況を確認しながらお読みください。
待遇差の説明ができず従業員の不満が爆発
最も多いトラブルが、従業員からの待遇差に関する質問に適切に答えられないケースです。同一労働同一賃金では、正社員とパート・契約社員との間に待遇差がある場合、企業には「説明義務」が課されています。
実際に東京都内の小売業A社では、勤続5年のパート社員から「同じレジ業務をしているのに、正社員には賞与があるのはなぜか」と質問されました。しかし人事担当者は明確な根拠を示せず、「正社員だから」という説明に留まってしまいました。結果として、そのパート社員は労働局に相談し、会社は行政指導を受けることになりました。
このようなトラブルを避けるためには、以下の対応が求められます。
- 待遇差の理由を文書化しておく
- 職務内容や責任の範囲の違いを明確にする
- 従業員からの質問に即答できる体制を整える
厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、「待遇差は職務の内容、職務の内容・配置の変更範囲、その他の事情を考慮して不合理であってはならない」と定められています。単に雇用形態が異なるという理由だけでは、待遇差の説明として不十分です。
就業規則が未整備で労基署調査時に指摘
もう一つのトラブルパターンが、就業規則や賃金規程が整備されておらず、労働基準監督署の調査で指摘を受けるケースです。
製造業B社の事例では、定期的な労基署調査の際に、パート社員と正社員の賃金テーブルが明文化されていないことが判明しました。口頭での取り決めのみで運用していたため、待遇差の根拠を示す書類が存在しませんでした。結果として、就業規則の整備を命じられ、さらに過去に遡って待遇差の是正を求められる可能性が生じました。
就業規則の未整備によるリスクは以下の通りです。
- 労基署からの是正勧告
- 従業員からの訴訟リスクの増大
- 待遇差の説明ができず行政指導の対象に
- 企業の信頼性低下
特に従業員10名以上の事業所では、就業規則の作成と労基署への届出が義務付けられています。同一労働同一賃金に対応した内容に更新されているか、早急に確認が必要です。
トラブルを防ぐために整備すべき4つのポイント
ここからは、同一労働同一賃金のトラブルを未然に防ぐために、企業が取り組むべき具体的な対応策を4つご紹介します。いずれも実務で即活用できる内容ですので、自社の状況に合わせて実践してください。
就業規則・賃金規程の見直しと明文化
最も重要なのが、就業規則と賃金規程を同一労働同一賃金に対応した内容に見直すことです。待遇差の根拠を明文化することで、従業員への説明がスムーズになり、トラブルを予防できます。
具体的には、以下の項目を就業規則に明記します。
- 職務内容の定義(正社員・パート・契約社員ごと)
- 責任の範囲と配置転換の有無
- 基本給・賞与・各種手当の支給基準
- 福利厚生の適用範囲
【実際の顧問先での事例】
当事務所の顧問先である介護事業所C社では、正社員とパートの介護職員で基本給に差がありました。しかし就業規則には「業務内容に応じて決定する」としか記載されておらず、具体的な根拠が不明確でした。
そこで以下の見直しを実施しました。
- 正社員は「夜勤対応可能」「リーダー業務あり」「配置転換あり」と明記
- パートは「日勤のみ」「担当業務限定」「配置転換なし」と明記
- これらの違いに基づき基本給に差を設けることを賃金規程に記載
- 賞与は「責任の範囲」を考慮要素として支給基準を明文化
この見直しにより、従業員からの質問に対して就業規則を根拠に説明できるようになり、労務トラブルを未然に防ぐことができました。
待遇差の説明体制の構築
就業規則を整備したら、次は従業員からの質問に即座に対応できる説明体制を構築します。法律では、従業員から求めがあった場合、企業は待遇差の内容と理由を説明する義務があります。
説明体制構築のステップは以下の通りです。
- 説明書類の準備:待遇差の理由をまとめた資料を作成
- 対応担当者の決定:人事部門の担当者を明確にする
- 説明マニュアルの作成:よくある質問と回答例を整理
- 記録の保管:説明日時・内容・従業員の反応を記録
特に説明書類は、従業員が理解しやすいように図表を使ってシンプルに作成することが重要です。専門用語は避け、「正社員は転勤があるため住宅手当を支給」「パートは勤務時間が短いため通勤手当は日割り計算」など、具体的な表現を心がけましょう。
定期的な賃金テーブルの点検
就業規則を整備しても、実際の運用が規則通りになっていなければ意味がありません。少なくとも年1回は賃金テーブルを点検し、不合理な待遇差が生じていないか確認しましょう。
点検すべき項目は以下の通りです。
- 基本給:職務内容が同じなのに賃金差がないか
- 賞与:貢献度の評価基準が明確か
- 各種手当:支給基準が合理的か(通勤手当・住宅手当など)
- 福利厚生:社員食堂・休憩室などの利用に差がないか
- 教育訓練:キャリアアップ機会が公平に提供されているか
特に注意が必要なのは、長年の慣習で「何となく」続けてきた待遇差です。例えば「パート社員は社員旅行に参加できない」といった取り決めは、合理的な理由がなければ問題となる可能性があります。
相談窓口の設置と記録保管
最後に、従業員が待遇について気軽に相談できる窓口を設置することも重要です。不満が蓄積する前に相談を受けることで、大きなトラブルを防げます。
相談窓口設置のポイントは以下の通りです。
- 匿名での相談も受け付ける仕組みを作る
- 相談内容は必ず記録し、対応履歴を残す
- 定期的に相談内容を分析し、共通する問題を把握する
- 相談したことで不利益な扱いを受けないことを明示する
記録の保管は、万が一トラブルが発生した際の証拠としても重要です。「どのような相談があり、どう対応したか」を文書で残すことで、企業が誠実に対応していたことを証明できます。保管期間は最低3年、可能であれば5年程度を目安にしましょう。
まとめ
同一労働同一賃金のトラブルを防ぐには、就業規則の整備と待遇差の説明体制構築が不可欠です。この記事で解説した4つのポイントを押さえることで、リスクは大幅に低減できます。
- 就業規則の見直し:待遇差の根拠を明文化する
- 説明体制の構築:従業員の質問に即答できる準備をする
- 定期的な点検:年1回は賃金テーブルをチェックする
- 相談窓口の設置:不満が大きくなる前に対応する
ただし、自社だけで対応するのが難しい場合は、労務の専門家である社会保険労務士に相談することをおすすめします。顧問社労士による定期的なチェックを受けることで、法改正への対応漏れを防ぎ、安心して事業運営に集中できます。
労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。