労働保険の年度更新で「概算保険料と確定保険料の違いがわからない」「賃金総額の集計を間違えて追徴金が発生したらどうしよう」と不安を感じていませんか。毎年6月1日から7月10日の期限内に正確な申告を行わないと、追徴金の発生や労働基準監督署からの指導を受けるリスクがあります。この記事では、概算保険料と確定保険料の計算方法を具体例を交えて解説し、よくある計算ミスの防止策までお伝えします。
概算保険料と確定保険料の違いと仕組み
労働保険の年度更新では、概算保険料と確定保険料という2つの保険料を計算する必要があります。この2つの違いを正しく理解することが、正確な申告の第一歩です。
概算保険料とは
概算保険料は、次年度分の保険料を事前に納付する仕組みです。労働保険では、年度が始まる前に1年間の保険料を見込みで計算し、前払いする必要があります。
計算式は以下の通りです。
概算保険料 = 見込み賃金総額 × 保険料率
たとえば、令和6年度の概算保険料を令和6年6月に申告する場合、令和6年4月から令和7年3月までの賃金総額を見込んで計算します。前年度の実績をベースに、昇給や人員増減などを考慮して算出するのが一般的です。
確定保険料とは
確定保険料は、前年度に実際に支払った賃金総額で精算する保険料です。概算で前払いしていた保険料と、実際に支払うべきだった保険料の差額を調整します。
計算式は以下の通りです。
確定保険料 = 前年度の実際の賃金総額 × 保険料率
確定保険料が概算保険料より多ければ追加納付が必要になり、少なければ還付されるか次年度の概算保険料に充当されます。たとえば、前年度に概算で100万円納付していたが、実際の賃金総額で計算すると95万円だった場合、5万円が還付または充当の対象となる可能性があります。
確定保険料の計算方法(前年度分の精算)
確定保険料を正確に計算するためには、賃金総額の集計範囲と保険料率を正しく理解する必要があります。
賃金総額の集計範囲
賃金総額には「含むもの」と「含まないもの」があり、厚生労働省の基準に基づいて判断します。間違えやすい項目を表で整理しました。
| 項目 | 含む/含まない | 補足 |
|---|---|---|
| 基本給 | 含む | 全額対象 |
| 残業手当 | 含む | 時間外・深夜・休日手当すべて |
| 賞与 | 含む | 年3回以内の賞与が対象 |
| 通勤手当 | 含む | 実費精算でも対象 |
| 退職金 | 含まない | 労働の対償ではないため除外 |
| 慶弔見舞金 | 含まない | 恩恵的給付のため除外 |
| 出張旅費(実費) | 含まない | 実費弁償分は除外 |
特に注意が必要なのは通勤手当です。社会保険では一定額まで非課税ですが、労働保険では全額が賃金総額に含まれます。また、現物支給(食事・住宅の提供など)も、都道府県労働局が定める評価額を賃金に含める必要があります。
保険料率と計算式
労働保険料は、労災保険料と雇用保険料の2つで構成されます。それぞれ保険料率が異なり、業種によっても変わります。
労災保険料の計算式
労災保険料 = 賃金総額 × 労災保険料率 × (1 + 一般拠出金率0.02/1000)
労災保険料率は業種ごとに異なり、危険度の高い建設業や製造業では高く、事務職中心の業種では低く設定されています。たとえば、一般的な事務職では2.5/1000程度、建設業では9.0/1000以上になるケースもあります。
雇用保険料の計算式
雇用保険料 = 賃金総額 × 雇用保険料率
雇用保険料率は令和6年度で一般の事業が15.5/1000(事業主負担9.5/1000、労働者負担6/1000)、建設業が18.5/1000、農林水産・清酒製造業が17.5/1000となっています。
これらを合計したものが確定保険料となります。
概算保険料の計算方法(次年度分の見込み)
概算保険料は次年度の見込み賃金総額をもとに計算するため、適切な見積りが重要です。
賃金総額の見積り方
概算保険料の賃金総額は、前年度の実績をベースに算出するのが基本です。以下のような要素を考慮して調整します。
- 昇給予定:定期昇給やベースアップがある場合は増額
- 人員増減:採用計画や退職予定者がいる場合は調整
- 賞与の変動:業績連動型の賞与制度がある場合は慎重に見積もる
- 労働時間の変化:時短勤務や残業削減施策がある場合は減額
新規事業で前年度実績がない場合は、同業種・同規模の企業データや初年度の計画人員×想定年収で見込み額を算定します。
計算例と申告書記入
具体的な数字で計算例を見てみましょう。
【前提条件】
- 業種:一般事務業(労災保険料率2.5/1000)
- 従業員数:20名
- 前年度賃金総額:5,000万円
- 前年度概算保険料:80万円(すでに納付済み)
- 次年度見込み賃金総額:5,200万円(昇給分を考慮)
【確定保険料の計算】
- 労災保険料:5,000万円 × 2.5/1000 = 125,000円
- 一般拠出金:5,000万円 × 0.02/1000 = 1,000円
- 雇用保険料:5,000万円 × 9.5/1000 = 475,000円
- 確定保険料合計:601,000円
【概算保険料の計算】
- 労災保険料:5,200万円 × 2.5/1000 = 130,000円
- 一般拠出金:5,200万円 × 0.02/1000 = 1,040円
- 雇用保険料:5,200万円 × 9.5/1000 = 494,000円
- 概算保険料合計:625,040円
【納付額の計算】
確定保険料601,000円 + 概算保険料625,040円 – 前年度概算保険料800,000円 = 426,040円
この例では、前年度に多めに納付していたため、今回の納付額は確定保険料と概算保険料の合計より少なくなります。
よくある計算ミスと確認ポイント
労働保険の年度更新では、賃金総額の集計ミスが最も多く発生します。実際に、ある製造業の顧問先では賞与を賃金総額に含め忘れ、約15万円の追徴金が発生した事例もあります。以下の2点は特に注意が必要です。
賞与の取り扱い
年3回以内の賞与は、労働保険の賃金総額に含める必要があります。一方、年4回以上支給される賞与は毎月の給与として扱われるため、別途集計する必要はありません。
社会保険では賞与を別枠で計算しますが、労働保険では通常の賃金と同じ扱いになる点が異なります。夏・冬のボーナスに加えて決算賞与を支給している場合、3回以内であれば全額を賃金総額に含めてください。
役員報酬の判断
役員報酬が労働保険の対象になるかは、実際に労務に従事しているかで判断します。単に取締役という肩書きがあるだけでは対象外ですが、以下のようなケースでは賃金総額に含める必要があります。
- 取締役だが現場で製造作業に従事している
- 営業部長として実際に営業活動を行っている
- 店長として接客やシフト管理を担当している
判断に迷う場合は、労働時間の大半を実務に費やしているかを基準に考えるとよいでしょう。兼務役員として労災保険に加入している場合は、その報酬は必ず賃金総額に含めます。
まとめ
この記事では、概算保険料と確定保険料の計算方法について解説しました。重要なポイントは以下の3つです。
- 確定保険料は前年度実績、概算保険料は次年度見込みで計算する:2つの保険料の性質の違いを理解し、それぞれ正確に算出することが基本です
- 賃金総額の集計範囲を正確に把握する:通勤手当や賞与など、含める・含めないの判断を間違えないよう厚労省基準を確認しましょう
- 期限内に正確な申告を行う:毎年6月1日から7月10日の期限を守り、計算ミスによる追徴金を避けることが重要です
労働保険の年度更新は専門的な手続きであり、計算ミスがあると追徴金だけでなく労働基準監督署からの指導を受けるリスクもあります。賃金総額の集計や保険料率の適用に不安がある場合は、社会保険労務士に相談することで正確かつ期限内に手続きを完了できます。労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。