新しくパートやアルバイトを採用したとき、「この人は雇用保険に入れないといけないの?」と悩む経営者の方は多いのではないでしょうか。雇用保険の加入基準を正しく理解していないと、後から労働局の調査で指摘を受けたり、従業員とのトラブルに発展したりするリスクがあります。この記事では、雇用保険の加入基準となる2つの条件と、具体的な手続きの流れについて、社労士の視点から解説します。
雇用保険の加入基準【2つの条件】
雇用保険への加入は、雇用保険法第5条に基づき、一定の条件を満たす労働者について事業主に義務として課されています。この条件は大きく分けて2つあり、どちらも満たす場合には雇用保険への加入手続きが必要です。
31日以上の雇用見込みがあること
1つ目の条件は、31日以上継続して雇用される見込みがあることです。これは雇用契約の期間によって判断されます。
具体的な判断基準は以下のとおりです。
- 雇用契約書に「31日以上」と明記されている場合
- 契約期間の定めがない場合(正社員など)
- 契約更新により31日以上となることが見込まれる場合
- 31日未満の契約でも、更新規定があり31日以上の雇用が見込まれる場合
注意が必要なのは、「当初1ヶ月契約だが更新の可能性がある」という場合です。雇用契約書に更新条項が記載されていれば、初回契約時から雇用保険の加入対象となります。実務では、更新の可能性があるにもかかわらず「まずは1ヶ月だけだから加入不要」と誤解しているケースが見られます。
実際に、ある飲食店では繁忙期のみの採用として1ヶ月契約を締結していましたが、契約書に「双方合意のもと更新可能」と記載があったため、労働局の調査で加入漏れを指摘された事例があります。契約書の文言にも注意が必要です。
週20時間以上勤務すること
2つ目の条件は、1週間の所定労働時間が20時間以上であることです。この時間は、雇用契約書で定めた所定労働時間で判断します。
所定労働時間の計算方法と注意点は以下のとおりです。
- 1週間の勤務時間が固定されている場合は、その時間で判断
- シフト制の場合は、契約上の平均的な週の労働時間で判断
- 月単位で契約している場合は、1ヶ月の所定労働時間を4.3で割って週換算
- 残業時間は含まず、あくまで契約上の所定労働時間で判断
例えば、「週3日勤務、1日7時間」の場合は週21時間となり、加入対象です。一方、「週4日勤務、1日4時間」の場合は週16時間となり、加入対象外となります。
実務でよくあるのが、「シフトによって週の労働時間が変動する」ケースです。この場合、雇用契約書に記載された基本的なシフトパターンで判断します。例えば契約書に「週4日、1日5時間を基本とする」と記載があれば週20時間となり、加入対象です。実際の勤務がそれより少なくても、契約上20時間以上であれば加入義務があります。
ある小売店では、アルバイトの実際の勤務時間が週15時間程度でしたが、契約書には「週20時間を目安として勤務」と記載があったため、労働局から加入義務があると指摘された事例があります。契約書の記載内容が判断基準となることを理解しておきましょう。
雇用保険加入手続きの流れ【2ステップ】
雇用保険の加入基準を満たす従業員を採用した場合、事業主は速やかに加入手続きを行う必要があります。手続きの流れは大きく2つのステップに分かれます。
必要書類の準備
まず、ハローワークへの届出に必要な書類を準備します。主な必要書類は以下のとおりです。
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 雇用契約書または労働条件通知書の写し
- 賃金台帳の写し
- 出勤簿またはタイムカードの写し
- 事業所の登記簿謄本(新規適用の場合)
特に重要なのが雇用契約書または労働条件通知書です。これらの書類には、雇用期間や労働時間が明記されている必要があります。前述の加入基準である「31日以上」「週20時間以上」が確認できる内容になっているか、提出前に必ずチェックしましょう。
実務では、雇用契約書の記載が曖昧で、ハローワークから追加資料を求められるケースが多く見られます。例えば「期間の定めなし」と記載すべきところを「当面の間」と記載していたり、労働時間を「1日○時間程度」と記載していたりすると、明確な判断ができないため再提出を求められることがあります。
ハローワークへの届出
必要書類が整ったら、事業所を管轄するハローワークに届出を行います。届出方法は以下の3つから選べます。
- ハローワークの窓口に直接提出
- 郵送による提出
- 電子申請(e-Gov)
届出の期限は雇用した日の翌月10日までです(雇用保険法施行規則第6条)。例えば、4月15日に従業員を雇用した場合、5月10日までに届出を完了させる必要があります。
期限を過ぎた場合、雇用保険法第83条により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、届出を怠っていた期間の保険料を遡って納付する必要があり、さらに延滞金が加算されるケースもあります。
実際に、ある製造業の事業所では、採用が立て込んだ時期に手続きを後回しにしてしまい、3ヶ月分の加入漏れが発覚しました。労働局の調査で指摘を受け、遡及加入と延滞金の支払いが発生した事例があります。「忙しいから後で」と先送りにせず、採用したらすぐに手続きを行うことが重要です。
また、従業員が前職で雇用保険に加入していた場合は、前の会社から交付された「雇用保険被保険者証」を提出してもらう必要があります。この被保険者証には雇用保険被保険者番号が記載されており、継続して使用します。従業員に対して、入社時に必ず「雇用保険被保険者証」の提出を求めるようにしましょう。
雇用保険未加入のリスクと罰則
雇用保険の加入義務があるにもかかわらず手続きを怠った場合、事業主には大きなリスクが生じます。主なリスクは以下のとおりです。
- 罰則の適用:前述のとおり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(雇用保険法第83条)
- 遡及加入と保険料の一括納付:加入漏れが発覚した場合、最大2年分を遡って加入し、保険料を一括で納付
- 従業員とのトラブル:退職後に失業給付を受けられないことが判明し、損害賠償を請求されるケース
- 助成金の不支給:雇用保険の適用が適正でない事業所は、各種助成金の受給ができない
特に注意が必要なのは、従業員からの損害賠償請求です。退職後に失業給付を申請しようとしたところ、雇用保険に加入していなかったことが判明し、本来受け取れるはずだった失業給付相当額の損害賠償を元従業員から請求された事例が実際にあります。
また、労働局は定期的に事業所への調査を実施しており、加入漏れが発覚するケースが増えています。調査では過去数年分の雇用契約書や賃金台帳をチェックされるため、「バレないだろう」という考えは通用しません。
まとめ
この記事では、雇用保険の加入基準と手続きの流れについて解説しました。重要なポイントは以下の3つです。
- 加入基準は2つ:「31日以上の雇用見込み」と「週20時間以上の勤務」の両方を満たせば加入義務がある
- 手続きは雇用日の翌月10日まで:期限を過ぎると罰則や延滞金のリスクがある
- 未加入は重大なリスク:罰則だけでなく従業員とのトラブルや助成金不支給の原因となる
雇用保険は労働者の生活を守る重要な制度です。加入基準を満たす従業員を採用したら、必ず期限内に手続きを行いましょう。手続きに不安がある場合や、過去の加入状況を確認したい場合は、社労士への相談も検討してみてください。適正な労務管理が、事業の安定した成長につながります。
労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。