働き方改革の推進により、副業・兼業を認める企業が増加しています。しかし、規程整備を誤ると競業避止や労働時間管理でトラブルになる可能性があります。本記事では、中小企業が副業を認める際の就業規則の具体的な改定ポイントを解説します。副業解禁を検討している経営者や人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
副業・兼業を認める際の基本的な考え方
副業解禁を進める前に、法的な位置づけと企業が制限できる範囲を正しく理解しておく必要があります。
法的には副業禁止できない理由
多くの企業では就業規則で副業を禁止していますが、労働者には職業選択の自由が憲法で保障されているため、原則として副業を一律禁止することはできません。労働基準法も、労働時間以外の時間をどのように使うかは労働者の自由としています。
厚生労働省が公表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも、企業は原則として副業を認める方向で対応することが望ましいとされています。ただし、就業規則で一定の制限を設けることは認められており、後述する例外事由に該当する場合は副業を制限できます。
副業を制限できる4つの例外事由
厚労省ガイドラインでは、以下の4つの事由に該当する場合に限り、企業は副業を制限できるとされています。
- 労務提供上の支障がある場合:長時間労働により本業に悪影響が出る
- 企業秘密が漏洩する場合:顧客情報や技術情報が流出するリスク
- 会社の名誉や信用を損なう行為がある場合:反社会的な副業など
- 競業により企業の利益を害する場合:同業他社での就労など
これらの事由を就業規則に明記することで、企業はリスクを管理しながら副業を認めることができます。実際に、当事務所の顧問先A社では、競合他社での副業を届出制にしていたところ、従業員が同業種で副業を開始し、顧客情報の流出が疑われる事態が発生しました。この事例から、事前の許可制と明確な禁止事項の規定が重要であることが分かります。
就業規則に盛り込むべき5つの項目
副業を認める場合、就業規則には以下の5つの項目を具体的に規定する必要があります。
副業の定義と申請手続き
まず、副業の定義を明確にすることが重要です。「他の事業主に雇用される場合」「自ら事業を営む場合」など、具体的に記載します。申請手続きについては、許可制と届出制の2つの選択肢があります。
許可制は、会社が事前に内容を審査して承認する方式で、リスク管理を重視する企業に適しています。一方、届出制は、従業員が事後報告する形式で、柔軟な働き方を尊重したい企業向けです。中小企業では、競業リスクを考慮して許可制を採用するケースが多いと言われています。
禁止事項と承認基準
前述の4つの例外事由を具体化した禁止事項を規定します。例えば、以下のような内容です。
- 競合他社での就労
- 会社の顧客に対する営業活動
- 会社の機密情報を利用する業務
- 公序良俗に反する業務
また、承認基準も明確にすることで、従業員が申請しやすくなり、会社側も判断に迷いません。「週10時間以内」「深夜・休日の勤務は不可」など、数値基準を設けると運用がスムーズになります。
労働時間管理の方法
副業を認める上で最も複雑なのが労働時間の通算管理です。労働基準法第38条では、複数の事業場で労働する場合、労働時間を通算して計算することが定められています。
具体的には、本業と副業の労働時間を合算し、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えた場合、後から契約した事業主が時間外労働の割増賃金を支払う義務があります。就業規則には、「副業の労働時間は自己申告制とし、月次で報告すること」といった管理方法を明記します。
健康配慮義務の規定
長時間労働による健康障害を防ぐため、健康配慮義務を規定することも重要です。例えば、本業と副業を合わせた総労働時間が月80時間を超える場合は産業医面談を実施する、といった具体策を盛り込みます。
また、年次有給休暇の取得状況や健康診断の結果も考慮し、従業員の健康状態を総合的に判断する仕組みを整えることが望ましいでしょう。
違反時の懲戒規定
無断での副業や虚偽申告があった場合の処分基準を明確にします。「懲戒処分の対象とする」といった曖昧な表現ではなく、「初回は戒告、再発時は減給」など段階的な処分を規定すると、従業員にとっても予見可能性が高まります。
ただし、懲戒処分は労働契約法第15条により、客観的に合理的で社会通念上相当な理由がなければ無効となるため、過度に厳しい処分は避けるべきです。
副業許可申請書のチェックポイント
就業規則を改定した後は、従業員が副業を申請する際の書式を整備します。
必須記載事項4つ
副業許可申請書には、以下の4つの情報を必ず記載させます。
- 副業先の企業名・業務内容:競業性の判断材料
- 勤務日時・時間:労働時間管理のため
- 業務内容の詳細:機密情報利用の有無確認
- 報酬額(任意):社会保険料算定の参考
これらの情報により、会社は前述の4つの例外事由に該当しないか判断できます。また、労働時間の通算計算にも必要なデータです。
承認可否の判断フロー
申請を受けた後は、客観的な基準に基づいて承認可否を判断します。以下のようなフローチャートを作成しておくと、担当者による判断のばらつきを防げます。
- ステップ1:競業性のチェック(同業種か?顧客が重複するか?)
- ステップ2:労働時間のチェック(通算で法定労働時間を大幅に超えないか?)
- ステップ3:機密情報利用のチェック(会社の情報を使う可能性はないか?)
- ステップ4:健康面のチェック(過去の勤怠に問題はないか?)
すべてのチェック項目をクリアした場合に承認し、1つでも懸念がある場合は面談を実施するといった運用が考えられます。なお、不承認の場合は理由を明示することで、従業員の納得感を高めることができます。
まとめ
この記事では、副業・兼業を認める際の就業規則の改定ポイントについて解説しました。重要なポイントは以下の3つです。
- 法的には原則副業を禁止できない:厚労省ガイドラインの4つの例外事由を就業規則に明記する
- 5つの必須項目を規定する:定義・禁止事項・労働時間管理・健康配慮・懲戒処分を具体的に記載
- 申請書と判断フローを整備する:客観的基準で承認可否を判断し、運用の透明性を確保
副業解禁は従業員のモチベーション向上やスキルアップにつながる一方、規程整備を怠ると労務トラブルのリスクが高まります。就業規則の改定は労働基準監督署への届出義務もあるため、専門家に相談しながら適切な規程を整備することをお勧めします。
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