離職率を下げるための労務管理の仕組みづくり

せっかく採用した従業員がすぐに辞めてしまう。このような悩みを抱えている中小企業の経営者の方は少なくありません。厚生労働省の「雇用動向調査」によると、従業員30人未満の企業の離職率は約20%と、大企業の約2倍の水準です。1人の従業員を採用するコストは平均で50万円から100万円と言われており、離職率の高さは企業経営に大きな影響を与えます。しかし、労務管理の仕組みを整えることで、離職率の改善が期待できるのです。この記事では、離職率を下げるための具体的な労務管理の方法について解説します。

離職率が高い企業に共通する労務管理の問題点

離職率が高い企業には、労務管理において共通する問題点が見られます。これらの問題を放置すると、従業員の不信感や不満が蓄積し、離職につながってしまいます。

労働条件の不透明さが不信感を生む

中小企業では、就業規則が未整備のまま運営されているケースが多く見られます。特に従業員10名未満の事業所では、就業規則の作成義務がないため、賃金体系や休暇制度が口頭のみで伝えられていることが少なくありません。

このような状況では、従業員は「聞いていた条件と違う」「同僚と給与が違うのはなぜか」といった疑問を抱きやすくなります。労働条件が明文化されていないため、経営者側も一貫性のある対応ができず、従業員との認識のずれが生じてしまうのです。

実際に、ある小売業の事例では、残業代の計算方法や有給休暇の取得ルールが明確でなかったため、従業員が不信感を持ち、半年で3名が退職したケースがありました。労働条件の透明性は、従業員の定着に直結する重要な要素です。

評価基準が曖昧で不公平感が生まれる

人事評価制度が整備されていない中小企業では、昇給や賞与の決定基準が不明確になりがちです。経営者の主観的な判断だけで評価が行われると、従業員は「どれだけ頑張っても報われない」と感じてしまいます。

特に若手従業員は、自分の成長が認められているかどうかを重視する傾向があります。明確な評価基準がなければ、努力の方向性が分からず、モチベーションの低下を招きます。

  • 評価基準が明文化されていない
  • フィードバックの機会がない
  • 頑張りと待遇が連動していない
  • キャリアパスが見えない

こうした不公平感は、優秀な人材ほど早期に退職する原因となります。人事評価制度の整備は、従業員のモチベーション維持と離職防止に欠かせません。

離職率を下げる労務管理の仕組み4つ

離職率の改善には、労務管理の仕組みを体系的に整えることが効果的です。ここでは、中小企業でも実践しやすい4つの方法をご紹介します。

就業規則の整備と周知徹底

就業規則は、従業員が10名以上になると作成と届出が義務となります。しかし、10名未満の企業でも、労働条件を明文化しておくことは従業員との信頼関係構築に重要です。

就業規則には以下の内容を盛り込む必要があります。

  • 始業・終業時刻と休憩時間
  • 休日・休暇に関する事項
  • 賃金の決定・計算・支払方法
  • 退職に関する事項
  • 安全衛生に関する事項

作成後は、従業員説明会を開いて内容を丁寧に説明し、いつでも閲覧できる場所に備え付けることが大切です。労働条件が明確になることで、従業員は安心して働くことができます。

勤怠管理システムの導入

タイムカードやExcelでの勤怠管理では、長時間労働の実態が見えにくいという問題があります。打刻漏れや記録の改ざんも起こりやすく、正確な労働時間の把握が困難です。

勤怠管理システムを導入することで、以下のメリットが得られます。

  • リアルタイムでの労働時間の可視化
  • 残業時間の自動集計とアラート機能
  • 有給休暇の取得状況の管理
  • 労働基準法違反のリスク低減

最近では月額数百円から利用できるクラウド型のシステムもあり、中小企業でも導入しやすくなっています。長時間労働を早期に発見し、対策を講じることで、従業員の健康を守り、離職を防ぐことができます。

定期面談制度の構築

従業員の不満や悩みは、突然の退職という形で表面化することが多いものです。月1回程度の1on1ミーティングを実施することで、離職の芽を早期に摘むことができます。

効果的な面談のポイントは以下の通りです。

  1. 傾聴に徹し、従業員の話をしっかり聞く
  2. 業務だけでなく、キャリアや私生活の悩みも共有
  3. 具体的な改善策を一緒に考える
  4. 面談内容を記録し、フォローアップする

ある建設業の企業では、月次面談を導入したことで、業務の過負荷や人間関係の問題を早期に発見し、配置転換や業務分担の見直しによって離職率が大幅に改善した事例があります。

労働環境の改善活動

給与や労働時間だけでなく、職場の快適性も従業員の満足度に大きく影響します。予算をかけずにできる改善もありますので、できることから始めることが重要です。

  • 休憩室の整備(コーヒーメーカーや冷蔵庫の設置)
  • 従業員同士のコミュニケーション促進(定期的なランチ会)
  • 福利厚生の充実(健康診断の補助、資格取得支援)
  • 柔軟な働き方の導入(フレックスタイム、リモートワーク)
  • 職場の5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)

小さな改善の積み重ねが、従業員の「この会社で働き続けたい」という気持ちを育てます。

離職率改善の成功事例(製造業A社の場合)

実際に労務管理の仕組みを整えることで離職率を改善した企業の事例をご紹介します。

改善前の状況と課題

従業員30名の金属加工業A社では、年間の離職率が35%という深刻な状況でした。せっかく技術を教えても1年以内に辞めてしまい、常に人手不足の状態が続いていました。

A社が抱えていた主な課題は以下の通りです。

  • 就業規則が作成されておらず、労働条件が口頭での説明のみ
  • タイムカードはあるものの、残業時間の管理が不十分
  • 評価基準が不明確で、昇給のタイミングもバラバラ
  • 従業員とのコミュニケーション機会がほとんどない

経営者は「中小企業だから多少は仕方ない」と考えていましたが、採用コストの増大と技術継承の困難さから、本格的な改善に取り組むことを決意しました。

実施した施策と成果

A社は社会保険労務士と相談しながら、以下の施策を段階的に実施しました。

  1. 就業規則の作成と説明会の実施(1ヶ月目)
    全従業員を集めて、労働条件や評価制度について丁寧に説明しました。
  2. 勤怠管理システムの導入(2ヶ月目)
    クラウド型のシステムを導入し、残業時間を可視化。月45時間を超える従業員には業務分担の見直しを実施しました。
  3. 月次面談制度のスタート(3ヶ月目)
    管理職向けに面談研修を実施し、全従業員との1on1を開始しました。
  4. 評価制度の明確化(6ヶ月目)
    技能レベルに応じた評価基準を設定し、昇給の仕組みを透明化しました。

これらの施策を実施した結果、1年後には離職率が20%まで改善しました。従業員からは「会社が自分たちのことを考えてくれていると感じる」「将来のキャリアが見えるようになった」という声が聞かれるようになりました。

さらに、離職率の低下により採用コストが削減され、技術継承もスムーズに進むようになったことで、生産性の向上にもつながっています。

まとめ

離職率を下げるためには、労務管理の仕組みを体系的に整えることが重要です。この記事では、離職率が高い企業の問題点と、改善のための4つの施策をご紹介しました。

  • 就業規則の整備で労働条件を明確にする
  • 勤怠管理システムで長時間労働を可視化する
  • 定期面談で従業員の不満を早期発見する
  • 労働環境の改善で従業員満足度を高める

労務管理の仕組みづくりは、企業規模に関わらず重要な経営課題です。自社だけでは何から手をつけていいか分からない場合は、社会保険労務士などの専門家を活用することで、効率的に改善を進めることができます。従業員が安心して長く働ける環境を整えることが、企業の持続的な成長につながるのです。

労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

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