同一労働同一賃金とは?企業が理解すべき基礎

「同一労働同一賃金」という言葉を耳にしたことはあるものの、具体的に何をすべきか分からず不安を感じている経営者の方は少なくありません。正社員とパート・契約社員の待遇差が違法と判断されるケースもあり、対応を怠ると労働局からの指導や訴訟リスクにつながる可能性があります。この記事では、同一労働同一賃金の基本的な制度内容から、企業が最低限実施すべき対応ステップまでを分かりやすく解説します。

同一労働同一賃金とは?法改正の経緯と基本原則

同一労働同一賃金とは、同じ企業内で同じ労働をしている労働者に対して、雇用形態の違いを理由に不合理な待遇差を設けてはならないという考え方です。2020年4月に施行されたパートタイム・有期雇用労働法により、企業には正社員と非正規社員の待遇差について合理的な説明が求められるようになりました。

制度の定義と2020年施行のパート有期法改正

パートタイム・有期雇用労働法(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)は、2020年4月1日に大企業で施行され、中小企業では2021年4月1日から適用が始まりました。この法律の第8条では、事業主は職務内容や配置変更の範囲などが同じ労働者については、雇用形態にかかわらず均等な待遇を確保しなければならないと定めています。

また、第9条では職務内容等が異なる場合でも、その違いに応じた均衡のとれた待遇を求めています。つまり、正社員とパート・契約社員で同じ業務を担当しているにもかかわらず、基本給や賞与に大きな差がある場合、その差を合理的に説明できなければ違法と判断される可能性があるのです。

正社員・非正規社員の待遇格差を是正する理由

この制度が導入された背景には、日本の労働市場における非正規雇用の増加があります。厚生労働省の労働力調査によれば、2020年時点で雇用者全体の約37%が非正規雇用であり、正社員との待遇格差が社会問題化していました。同じ仕事をしているのに雇用形態だけで賃金や福利厚生に差があることは、労働者のモチベーション低下や人材流出を招くだけでなく、企業の生産性にも悪影響を及ぼします。

また、少子高齢化による労働力不足が深刻化する中で、多様な働き方を選択できる環境整備が国の政策課題となっています。同一労働同一賃金は、非正規雇用で働く人々の処遇を改善し、能力を発揮しやすい環境をつくることで、企業の競争力向上にもつながると考えられているのです。

企業が理解すべき「不合理な待遇差」の判断基準

同一労働同一賃金を実務で適用する際、最も重要なのが「不合理な待遇差」をどう判断するかという点です。厚生労働省が公表している「同一労働同一賃金ガイドライン」では、具体的な考え方が示されています。

厚労省ガイドラインが示す3つの考慮要素

待遇差が不合理かどうかを判断する際、以下の3つの要素を総合的に考慮する必要があります。

  • 職務内容:業務の内容と責任の程度が同じかどうか
  • 職務内容・配置の変更範囲:転勤や異動、昇進の有無や範囲が同じかどうか
  • その他の事情:労使交渉の経緯や職務の成果、能力、経験などの個別事情

例えば、正社員とパート社員が同じレジ業務を担当していても、正社員には店舗間の異動や管理職への昇進可能性がある一方、パート社員にはそれがない場合、基本給に一定の差を設けることは合理的と判断される可能性があります。ただし、その差があまりに大きい場合や、実態として転勤や昇進がほとんど発生していない場合は、不合理と判断されるリスクがあります。

当事務所の顧問先企業でよくある勘違いとして、「パートだから賞与なし」「契約社員には退職金を支給しない」といった形式的な線引きをしているケースが見られます。しかし、ガイドラインでは職務内容等が同じであれば、賞与や退職金についても雇用形態を理由に不支給とすることは原則として不合理とされています。

違法となる待遇差の具体例と判例

実際に裁判で争われた事例を見ると、どのような待遇差が違法と判断されるかが明確になります。

ハマキョウレックス事件(最高裁平成30年6月1日判決)では、運送会社のトラック運転手について、正社員には支給されていた無事故手当や作業手当が契約社員には支給されていなかったことが争われました。最高裁は、これらの手当の趣旨は職務内容や責任の程度に応じたものであり、正社員と同じ業務を行う契約社員に支給しないことは不合理であると判断しました。

長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)では、定年後再雇用された嘱託社員の賃金が定年前の約8割に減額されたことが問題となりました。この事例では、基本給や賞与の減額は一定程度認められたものの、精勤手当など職務内容と直接関係のない手当まで不支給とすることは不合理と判断されています。

これらの判例から分かるのは、待遇差を設ける場合は、その手当や給与項目ごとに、職務内容等との関連性を説明できることが重要という点です。単に「正社員だから」「パートだから」という理由だけでは、待遇差を正当化できないのです。

企業が最低限実施すべき対応ステップ

では、企業は具体的にどのような対応を行えばよいのでしょうか。最低限押さえるべき実務上のポイントを解説します。

正社員・非正規社員の待遇比較と文書化

まず最初に行うべきは、自社の雇用形態ごとの待遇を一覧表にして可視化することです。基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練の機会などを項目別に整理し、正社員とパート・契約社員でどのような違いがあるかを明確にします。

次に、待遇差がある項目について、以下の観点から合理性を検証します。

  • その待遇項目の趣旨・目的は何か(例:通勤手当は通勤費用の補填、賞与は業績への貢献に対する報酬)
  • 正社員と非正規社員で職務内容や責任の程度に違いがあるか
  • 配置転換や異動の範囲に違いがあるか
  • その違いは、待遇差を設ける理由として十分か

この検証結果を文書化しておくことで、従業員から説明を求められた際や、労働局の調査が入った際にスムーズに対応できます。説明できない待遇差が見つかった場合は、就業規則や賃金規程の見直しを検討する必要があります。

従業員への説明義務と就業規則の見直し

パートタイム・有期雇用労働法では、労働者から求めがあった場合、待遇差の内容や理由を説明する義務が企業に課されています(第14条)。この説明義務を怠ると、都道府県労働局から行政指導を受ける可能性があります。

説明の際は、「正社員だから」といった抽象的な理由ではなく、職務内容や配置変更の範囲の違いを具体的に示す必要があります。また、説明を求めた労働者に対して不利益な取扱いをすることは法律で禁止されていますので、注意が必要です。

就業規則の見直しでは、以下のポイントを確認してください。

  • 各手当の支給要件に「正社員に限る」といった不合理な限定がないか
  • パート・契約社員にも適用される福利厚生制度が明記されているか
  • 教育訓練の機会について、雇用形態による不合理な差別がないか
  • 正社員転換制度など、キャリアアップの仕組みが整備されているか

就業規則を変更する際は、労働者の過半数代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です。また、不利益変更となる場合は、労働者の合意や合理的な理由が求められますので、慎重に進める必要があります。

同一労働同一賃金への対応は一度で完結するものではなく、定期的な見直しと改善が求められます。新しい雇用形態を導入する際や、業務内容が変わった際には、その都度待遇の妥当性を検証することが重要です。

まとめ

同一労働同一賃金は、待遇差について合理的な説明ができるかどうかが核心となります。まずは自社の雇用形態ごとの待遇を一覧化し、説明できない格差がないか確認してください。重要なポイントは以下の3つです。

  • 職務内容や配置変更の範囲を基準に待遇を設計すること:単に雇用形態の違いだけでは待遇差を正当化できません
  • 各手当の趣旨を明確にし、それに応じた支給基準を設けること:形式的な線引きではなく、実態に即した制度設計が必要です
  • 従業員への説明責任を果たすこと:求めがあれば待遇差の理由を具体的に説明できる体制を整えましょう

同一労働同一賃金への対応に不安がある場合や、自社の待遇が適切か判断に迷う場合は、専門家への相談をお勧めします。労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

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