手当・賞与の見直し方法と説明責任

同一労働同一賃金への対応で多くの企業が直面する「手当・賞与の見直し」。法改正により非正規社員への説明義務が強化され、不合理な待遇差は訴訟リスクにつながる時代になりました。本記事では中小企業での実務経験をもとに、トラブルを避ける見直し手順と説明責任の果たし方を解説します。

手当・賞与見直しが必要な2つの理由

同一労働同一賃金法の説明義務

2020年4月に施行されたパートタイム・有期雇用労働法により、企業には正社員と非正規社員の待遇差について説明する義務が課されました。この法律は中小企業にも2021年4月から適用されています。

厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、以下のような待遇差が問題視されています。

  • 通勤手当や食事手当など、業務遂行に必要な手当を非正規社員に支給しない
  • 職務内容が同じなのに、雇用形態だけを理由に賞与に大きな差をつける
  • 勤続年数や成果が同等なのに、昇給制度が正社員にしか適用されない

特に重要なのは、非正規社員から説明を求められた場合、7日以内に書面で回答する義務がある点です。この説明が不十分だと、労働局への相談や訴訟につながるケースが増えています。

訴訟リスクと企業への影響

実際の判例では、待遇差の不合理性が認められた場合、企業に大きな損害賠償が命じられています。代表的な事例として、ある運送会社では契約社員への賞与未払いが問題となり、約400万円の賠償命令が出されました。

ある顧問先企業では、パート社員から「正社員と同じ仕事をしているのに、なぜ賞与がないのか」と質問されたものの、明確な説明ができず、労働局への相談に発展したケースがありました。結果として、過去2年分の賞与相当額を遡及して支払うことになり、約200万円の追加コストが発生しました。

訴訟リスク以外にも、以下のような影響が考えられます。

  • 企業イメージの低下による採用難
  • 従業員のモチベーション低下
  • 労働局の指導による業務停滞

見直し前に確認すべき3つのポイント

現行の手当・賞与の洗い出し

まず、自社で支給しているすべての手当と賞与をリストアップすることから始めます。見落としがちな手当も含めて、正確に把握することが重要です。

以下のチェックリストを活用して確認してください。

手当の種類 正社員 契約社員 パート
基本給
通勤手当 ×
役職手当 × ×
住宅手当 × ×
家族手当 × ×
賞与(年間) 基本給×4ヶ月 なし なし

この表のように、○×△で可視化すると、どこに格差があるかが一目でわかります。特に通勤手当や食事手当など、業務遂行に必要な手当で差がある場合は、優先的に見直しが必要です。

正社員と非正規の待遇差の現状把握

次に、同じ業務を担当している正社員と非正規社員を比較し、待遇差に合理的な理由があるかを検証します。厚労省ガイドラインでは、以下の3つの観点で判断するよう示されています。

  1. 職務内容(業務の内容と責任の程度)
  2. 職務内容・配置の変更範囲
  3. その他の事情(労使交渉の経緯など)

実務では、以下のような比較表を作成すると整理しやすくなります。

比較項目 正社員A 契約社員B 差の合理性
主な業務 営業・新規開拓 営業・既存顧客対応
責任の範囲 チームマネジメント 個人業務のみ
転勤の可能性 あり(全国) なし(地域限定)
賞与 年間4ヶ月分 なし

この例では、業務内容や責任範囲には差があるものの、賞与がゼロという点は説明が難しいケースです。

法令違反のリスク評価

最後に、現状の待遇差が法令違反に該当する可能性を評価します。特に以下のような場合は、早急な対応が求められます。

  • 通勤手当を非正規社員に支給していない
  • 同じ業務なのに賞与が全く支給されていない
  • 待遇差の理由を社内で文書化していない

手当見直しの具体的手順

各手当の支給目的を明確化する

手当の見直しでは、まずなぜその手当を支給しているのかという目的を明確にすることが重要です。目的が曖昧なまま支給している手当は、説明が困難になります。

手当は以下の3つに分類できます。

分類 非正規への支給
業務遂行型 通勤手当、出張手当 原則支給すべき
能力・役割型 役職手当、資格手当 同じ役割なら支給
生活補助型 住宅手当、家族手当 支給しなくても可

ある顧問先では、住宅手当を「転勤可能性への対価」と再定義することで、地域限定の契約社員には支給しないという整理ができました。このように、目的を明文化することが説明責任を果たす第一歩です。

不合理な格差を是正する方法

待遇差の是正には、以下の3つの選択肢があります。

  1. 非正規社員の待遇を引き上げる:通勤手当など業務遂行型手当で有効
  2. 正社員の待遇を見直す:過剰な手当を整理し、基本給に統合
  3. 手当を廃止して基本給に組み込む:シンプルな賃金体系に移行

多くの中小企業では、コスト負担を考慮して「2」と「3」を組み合わせる方法が選ばれています。たとえば、正社員の住宅手当を廃止する代わりに、基本給を月1万円引き上げるといった対応です。

賞与見直しの具体的手順

賞与の性質を再定義する

賞与見直しで最も重要なのは、賞与が何に対する報酬なのかを明確にすることです。厚労省ガイドラインでは、賞与の性質を以下のように分類しています。

  • 業績連動型:会社や部門の業績に応じて支給
  • 評価連動型:個人の成果や能力評価に基づいて支給
  • 勤続奨励型:長期雇用を前提とした継続勤務への報酬

このうち、業績連動型や評価連動型であれば、正社員と非正規社員で同じ基準を適用することが求められます。一方、勤続奨励型の場合は、長期雇用が前提の正社員のみに支給する理由が説明しやすくなります。

支給基準の明文化と周知

賞与の支給基準は、就業規則や賃金規程に明記する必要があります。以下の項目を文書化してください。

  • 支給時期(年2回、夏季・冬季など)
  • 支給対象者(雇用形態、在籍期間の条件)
  • 支給額の算定方法(基本給の○ヶ月分、評価係数など)
  • 支給日に在籍していない場合の扱い

ある製造業の顧問先では、「賞与は会社業績と個人評価を5:5で反映する」と規程に明記し、非正規社員にも同じ評価制度を適用することで、待遇差の合理性を説明できるようにしました。

従業員への説明責任の果たし方

説明が必要な3つのタイミング

パートタイム・有期雇用労働法では、以下のタイミングで説明義務が発生します。

  1. 雇い入れ時:労働条件通知書で待遇の内容を説明
  2. 従業員から求められた時:7日以内に書面で待遇差の理由を回答
  3. 待遇を変更する時:事前に変更内容と理由を説明

特に2番目の「求めに応じた説明」は、口頭ではなく書面での回答が必須です。メールやチャットでの説明も認められますが、内容を記録に残すことが重要です。

トラブルを防ぐ説明資料の作り方

説明資料には、以下の内容を必ず記載してください。

  • 待遇の具体的な内容(手当名、支給額、支給条件)
  • 正社員との待遇差がある場合、その内容
  • 待遇差がある理由(職務内容、責任の程度、配置変更の範囲など)
  • 今後の見直し予定(ある場合)

説明が不十分だと判断されないよう、具体的な事実に基づいて記載することが大切です。「正社員だから」「パートだから」という説明は、法的に認められません。

手当・賞与の見直しは法令遵守だけでなく、従業員の納得性が重要です。説明義務を果たしながら段階的に進めることで、トラブルを防ぐことができます。自社だけで対応が難しい場合は、労務の専門家である社労士にご相談されることをお勧めします。

労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

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