給与明細を見て「厚生年金保険料が毎月こんなに引かれているのか」と驚いた経験はありませんか。経営者や人事担当者の方からも、従業員に保険料の負担について質問されることが増えているという声をよく耳にします。厚生年金保険料は毎月の給与から天引きされる大きな金額ですが、その決まり方や将来の年金額との関係を正しく理解している方は意外と少ないのが現状です。この記事では、厚生年金保険料がどのように計算されるのか、そして納めた保険料が将来どのように年金として返ってくるのかを分かりやすく解説します。従業員への説明にも役立つ内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
厚生年金保険料の基本的な決まり方
厚生年金保険料は、従業員の給与に応じて毎月決まった額が天引きされます。しかし、給与額そのものに保険料率をかけるわけではなく、標準報酬月額という仕組みを使って計算されています。ここでは、保険料算定の基礎となる標準報酬月額の考え方と、実際の保険料率について詳しく見ていきましょう。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、厚生年金保険料を計算する際の基礎となる金額のことです。実際の月給をそのまま使うのではなく、厚生労働省が定めた標準報酬月額表に基づいて、月給を一定の区分に当てはめて決定します。
現行の制度では、標準報酬月額は32等級に区分されており、第1級の88,000円から第32級の650,000円まで設定されています。例えば、月給が25万円の従業員の場合、標準報酬月額表では「報酬月額24万円以上26万円未満」の区分に該当し、標準報酬月額は25万円となります。
標準報酬月額を使う理由は、事務処理の簡素化にあります。従業員の給与は残業代や手当などで毎月変動することがありますが、そのたびに保険料を細かく計算し直すのは煩雑です。そのため、ある程度の幅を持たせた区分を設け、その区分ごとに標準報酬月額を定めることで、計算を効率化しているのです。
標準報酬月額は原則として年に1回、4月・5月・6月の3か月間の報酬月額の平均を基に、毎年9月に見直しが行われます。これを定時決定と呼びます。また、昇給や降給で報酬が大きく変動した場合には、随時改定という手続きで標準報酬月額が変更されることもあります。
保険料率と労使折半の仕組み
厚生年金保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて計算されます。現行の保険料率は18.3%です。この保険料率は2017年9月に18.3%で固定され、それ以降変更されていません。
重要なポイントは、この18.3%を従業員と会社が半分ずつ負担する労使折半の仕組みになっていることです。つまり、従業員の負担は9.15%、会社の負担も9.15%となります。
具体的な計算例を見てみましょう。標準報酬月額が30万円の従業員の場合、厚生年金保険料の総額は以下のようになります。
- 保険料総額:30万円×18.3%=54,900円
- 従業員負担:30万円×9.15%=27,450円
- 会社負担:30万円×9.15%=27,450円
給与明細に記載される厚生年金保険料は、従業員負担分の27,450円です。しかし実際には、会社も同額を負担しているため、年金制度全体には54,900円が納付されていることになります。この会社負担分は、従業員にとって目に見えにくい部分ですが、将来の年金額を計算する際には非常に重要な要素となります。
なお、賞与からも厚生年金保険料が徴収されます。賞与の場合は、標準賞与額という考え方を使い、賞与額の千円未満を切り捨てた金額に18.3%の保険料率をかけて計算します。ただし、標準賞与額には1か月あたり150万円という上限が設けられています。
保険料が将来の年金額に与える影響
厚生年金保険料を長年納め続けることで、将来受け取る年金額が決まってきます。多くの方が気になるのは「今払っている保険料が、将来いくらの年金になって返ってくるのか」という点ではないでしょうか。ここでは、保険料と年金額の関係について、計算方法を含めて詳しく解説します。
報酬比例部分の計算方法
厚生年金の受給額は、大きく分けて定額部分と報酬比例部分の2つで構成されます。定額部分は国民年金から支給される基礎年金のことで、厚生年金独自の上乗せ部分が報酬比例部分です。
報酬比例部分の年金額は、以下の計算式で求められます。
年金額=平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数
この計算式の各要素について説明します。
- 平均標準報酬額:厚生年金加入期間中の標準報酬月額と標準賞与額の平均値です
- 5.481/1000:給付乗率と呼ばれる係数で、2003年4月以降の加入期間に適用されます
- 加入月数:厚生年金に加入していた期間の月数です
具体的な例で計算してみましょう。Aさんが大学卒業後から定年まで38年間(456か月)厚生年金に加入し、その間の平均標準報酬額が35万円だったとします。
年金額=35万円×5.481/1000×456か月=約874,000円(年額)
つまり、Aさんの報酬比例部分の年金額は年間約87万円となります。これに国民年金からの基礎年金(満額で年間約78万円)が加わるため、合計で年間約165万円の年金を受け取ることができる計算になります。
この計算式から分かるように、平均標準報酬額が高いほど、また加入期間が長いほど、将来受け取る年金額は増える仕組みになっています。毎月納めている厚生年金保険料は、標準報酬月額が高いほど多くなりますが、その分将来の年金額も増えるため、決して損をしているわけではありません。
加入期間が年金額を左右する理由
前述の計算式を見ても分かる通り、厚生年金の加入月数は年金額に直接影響します。加入期間が1か月長くなるだけでも、将来受け取る年金額は確実に増加するのです。
例えば、平均標準報酬額が30万円の方の場合、加入期間が1か月増えると年金額は以下のように増えます。
30万円×5.481/1000×1か月=約1,644円(年額)
1か月の延長で年間約1,600円、つまり月額約130円の年金増加となります。一見少額に思えるかもしれませんが、年金は生涯にわたって受け取るものです。65歳から85歳まで20年間受給すると仮定すれば、1か月の加入期間延長で約32,000円の総受給額増加につながります。
また、現行制度では年金の受給開始年齢を繰下げることで、受給額を増やすこともできます。65歳から受給を開始せず、66歳以降に繰下げると、1か月あたり0.7%ずつ年金額が増額されます。最大で75歳まで繰下げが可能で、その場合は84%(0.7%×120か月)の増額となります。
逆に、経済的な事情などで早く年金を受け取りたい場合は、60歳から64歳の間に繰上げ受給を選択することもできます。ただし、繰上げた場合は1か月あたり0.4%ずつ年金額が減額され、その減額率は生涯続くため、慎重な判断が求められます。
このように、加入期間の長さだけでなく、受給開始のタイミングも将来の年金額に大きく影響します。ライフプランに応じて、最適な選択を検討することが重要です。
まとめ
厚生年金保険料は、標準報酬月額に18.3%の保険料率をかけて計算され、従業員と会社が半分ずつ負担する仕組みになっています。毎月の給与明細で引かれる金額は大きく感じられるかもしれませんが、その保険料は将来の年金として確実に積み上がっています。
将来受け取る年金額は、納めた保険料の基となる平均標準報酬額と加入期間によって決まります。計算式を理解することで、おおよその年金額を予測でき、老後の生活設計に役立てることができます。また、受給開始時期を繰上げ・繰下げすることで年金額を調整できる選択肢もあります。
経営者や人事担当者の方は、この仕組みを正しく理解することで、従業員からの質問に的確に答えられるようになり、信頼関係の構築にもつながります。厚生年金保険料に関する疑問や、従業員への説明方法で不安な点があれば、社会保険労務士に相談することをおすすめします。
労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。