在職老齢年金の仕組みと注意点

60代になって働きながら年金を受け取ろうと考えたとき、「年金が減額されるのではないか」という不安を感じる方は多いのではないでしょうか。在職老齢年金は複雑に見えますが、仕組みを正しく理解すれば、損をしない働き方を選択できます。この記事では、2024年度の最新基準に基づいた計算方法や、働き方の工夫について詳しく解説します。

在職老齢年金とは?基本的な仕組み

在職老齢年金の対象者と適用条件

在職老齢年金とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給する制度です。会社員や役員として働き続ける場合、給与と年金の合計額が一定基準を超えると、年金の一部または全部が支給停止されます。

この制度の対象となるのは、以下の条件を満たす方です。

  • 厚生年金保険に加入している会社員・役員
  • 老齢厚生年金の受給権がある方(60歳以降)
  • 週の労働時間が20時間以上など、厚生年金の適用要件を満たしている方

注意したいのは、60-64歳と65歳以降で制度の基準が異なる点です。かつては60代前半の方が厳しい基準でしたが、2022年の法改正により、現在は60歳以降すべて同じ基準が適用されています。

支給停止の基準額(2024年度)

2024年度の在職老齢年金では、総報酬月額相当額と基本月額の合計が50万円を超える場合、超過額の2分の1が支給停止されます。

この50万円という基準は、2022年4月の法改正で47万円から引き上げられました。厚生労働省のデータによると、この改正により、約60万人の高齢者が年金の減額対象から外れたとされています。働きながら年金を受け取りやすくなったことで、高齢者の就労を促進する効果が期待されています。

具体的な計算要素は以下の通りです。

  • 総報酬月額相当額:標準報酬月額+(直近1年間の賞与合計÷12)
  • 基本月額:年金額÷12

この2つを合計した金額が50万円以下であれば、年金は全額支給されます。

在職老齢年金の計算方法と具体例

支給停止額の計算式

在職老齢年金の支給停止額は、次の計算式で求められます。

支給停止額=(総報酬月額相当額+基本月額-50万円)×1/2

まず、総報酬月額相当額の計算方法を確認しましょう。

  • 標準報酬月額:健康保険証に記載されている月額報酬(給与)
  • 賞与:直近1年間に受け取った賞与の合計を12で割った額

例えば、標準報酬月額が30万円、直近1年間の賞与が60万円だった場合、総報酬月額相当額は以下のようになります。

30万円+(60万円÷12)=35万円

次に、基本月額は年金額を12で割って算出します。年間の老齢厚生年金が180万円の場合、基本月額は15万円です。

年齢別の計算シミュレーション

実際の支給額を、年齢別の具体例で見ていきましょう。

年齢 給与(標準報酬月額) 年金月額(基本月額) 合計 支給停止額 実際の年金受給額
60-64歳 30万円 15万円 45万円 0円 15万円(全額支給)
65歳以降 40万円 18万円 58万円 4万円 14万円

1つ目の例では、合計が50万円以下のため年金は全額支給されます。2つ目の例では、合計が50万円を8万円超過しているため、その半額の4万円が支給停止となり、実際に受け取れる年金は14万円になります。

賞与がある場合は、総報酬月額相当額が増えるため、さらに支給停止額が大きくなる可能性があります。年度途中で賞与が支給された場合は、再計算が必要になる点に注意が必要です。

働き方を変えるべき?判断のポイント

年金を減らさない働き方の工夫

在職老齢年金で年金が減額されるのを避けたい場合、いくつかの働き方の工夫があります。ただし、社会保険の適用逃れを目的とした不適切な調整は違法ですので、正しい知識に基づいた判断が大切です。

まず、労働時間や労働日数を調整する方法があります。厚生年金の適用要件は以下の通りです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 2か月を超える雇用の見込みがある
  • 学生でないこと

これらの要件を満たさない働き方にすれば、厚生年金の適用対象外となり、年金は全額受給できます。例えば、週の労働時間を19時間以内に抑えるといった方法です。

役員の場合は、報酬月額を調整することで総報酬月額相当額をコントロールできます。ある製造業の社長(65歳)は、役員報酬を月額35万円に設定し、年金月額12万円と合わせて47万円とすることで、年金の減額を避けていました。ただし、役員報酬は職務内容に見合った適正な額である必要があり、極端に低い設定は税務上問題になる場合があります。

在職定時改定による年金額増加

2022年4月に施行された在職定時改定は、働きながら年金を受け取る方にとって大きなメリットがある制度です。

従来は、65歳以降も厚生年金に加入して働き続けた場合、退職するまで年金額の改定が行われませんでした。しかし、在職定時改定により、毎年10月に年金額が見直されるようになりました。

具体的には、65歳以降も厚生年金保険料を納め続けることで、その分が年金額に反映されます。例えば、標準報酬月額30万円で1年間働いた場合、翌年10月から年金額が年間約2万円増加します。

この制度により、長く働くほど年金額が増えていくため、在職老齢年金で一部減額されても、将来的には年金額が増えるという長期的なメリットがあります。特に、70歳まで働く予定がある方は、この制度を活用することで老後の年金収入を増やせます。

在職老齢年金でよくあるトラブルと対処法

支給停止になった場合の手続き

在職老齢年金に関するトラブルで多いのが、賞与の届出漏れによる過払い問題です。

【相談事例】ある建設会社の役員(67歳)は、年度末に予定外の賞与120万円を受け取りました。この賞与により総報酬月額相当額が大きく増加し、本来は年金の一部が支給停止されるべきでしたが、届出が遅れたため、数か月間年金が過払いとなりました。後日、年金事務所から過払い分の返還請求を受け、一括返済が困難なため分割返済の手続きが必要になりました。

社労士の解説:「総報酬月額相当額には直近1年間の賞与も含まれるため、年度途中で賞与が支給された場合は、速やかに年金事務所へ届出を行う必要があります。届出が遅れると、過払いが発生し、後で返還しなければならなくなります。会社の担当者と連携し、賞与支給時には必ず確認するようにしましょう」

対処法としては、以下の点に注意してください。

  • 賞与が支給されたら、速やかに年金事務所に連絡する
  • 標準賞与額の変更届を提出する
  • 再計算された年金額を確認する

過払いが発生した場合でも、分割返済の相談ができますので、早めに年金事務所に相談することが大切です。

70歳以降も働く場合の注意点

70歳以降も働き続ける場合、いくつか知っておくべきポイントがあります。

まず、70歳以降は厚生年金保険料の負担がなくなります。これは、厚生年金の加入期間が70歳で終了するためです。給与から厚生年金保険料が天引きされなくなるため、手取り額が増えます。

ただし、在職老齢年金の支給停止は70歳以降も継続されます。給与と年金の合計が50万円を超える場合は、引き続き年金の一部が支給停止されます。厚生年金保険料を払っていないのに年金が減額されるという、一見矛盾した状況になりますが、これは制度上そのような仕組みになっています。

また、70歳以降は在職定時改定の対象外となります。65-69歳の間は、働き続けることで毎年10月に年金額が増額されましたが、70歳以降はこの改定がありません。そのため、70歳以降も高収入で働き続ける場合、年金が減額されるだけでメリットが少なくなる可能性があります。

70歳以降の働き方を考える際は、年金の減額と給与収入のバランスを総合的に判断することが重要です。

まとめ

在職老齢年金は複雑な制度ですが、50万円の基準額や計算方法を理解すれば、損をしない働き方を選択できます。2022年の法改正により基準額が引き上げられ、在職定時改定も導入されたことで、働きながら年金を受け取りやすくなりました。

給与と年金のバランスに不安がある方や、最適な働き方を知りたい方は、社労士に個別相談することで、ご自身の状況に合ったプランを立てられます。当事務所では60代以降の働き方設計もサポートしていますので、お気軽にご相談ください。

労務に関するご相談はSalt社会保険労務士法人までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。

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